ペトルス・ロンバルドゥスと書物史

以前『フーコーで学ぶスコラ哲学』を取り上げたことのあるフィリップ・W・ローズマン。この人のフィールドはペトルス・ロンバルドゥスなのだそうで、その有名な『命題集』の内容を一般向けに解説した『ペトルス・ロンバルドゥス』(“Peter Lombard”, Oxford Univ. Press, 2004)なんてのも出しているのだけれど、今度はさらにその注解の歴史を大まかに辿るという一冊が出ていた。『ある偉大な中世の書の物語–ペトルス・ロンバルドゥスの「命題集」』(“The Story of a Great Medieval Book – Peter Lombard’s Sentences”, Broadview Press, 2007)。12世紀から15世紀までの「要約本」や「注解」などを書物史の観点からまとめている。とりあえず前半の12世紀と13世紀のところを読んでみたのだけれど、なるほど、『命題集』は書物史的にもとても重要なのだそうで、同書そのものが、欄外の「脚注」の嚆矢をなしているのだという。また目次が付されているのも画期的なことだったようだ。『命題集』そのものにも、最初の版のほかに増補版があるようで(ロンバルドゥス本人が記したもの)、さらに、直後から出ていたという要約本から、逐語注解を経て13世紀の自由討論風の注解(ボナヴェントゥラやトマス・アクィナス)へといたる経緯を追うと、神学が修道院や司牧の関心から遊離し、学として確立していく過程が追えるということにもなるらしい。うーん、書物史もやはり面白いねえ。13世紀に神学の講義に『命題集』を使うようになった嚆矢として、ヘイルズのアレクサンダーが重要だというのも、個人的にちょっと押さえておきたいポイントかも(笑)。