記憶術関連で結構重要なジュリオ・カミッロ(16世紀)の『劇場のイデア』(足達薫訳、ありな書房)を読み始める。いやー、これを邦訳で読めるというのは素晴らしい。本文とともに、後半を占める訳者による解説もしくは論考も並行して読み進める。カミッロの生涯から始まって研究史、彼が構想した「記憶の劇場」の構造などを順にめぐっていくもの。古代や中世への参照はあまりないけれども(それがあれば論考だけで一冊になっていただろうけれど)、同時代的な連関や後世の評価などが一覧でき、とても参考になる。論考自体が、一種同時代への旅という風で興味深い。カミッロという人そのものがどこか毀誉褒貶相半ばする人物だったらしく、また実際に作られた(という証言があるというのだが)その「記憶の劇場」も、同じく評価が分かれるものだったようだ。著者が引いているツィケムスの証言によると、その劇場というのは「人はいつでもすぐにそこからあらゆる論題を引き出すことができるといいます」とされていたりして、古くはライムンドゥス・ルルスが用いた「円盤」と基本的発想は似ている感じがする。いわばルルスの円盤の図像版・立体版のようなもの?イエイツほかの再構成案というのがあるらしいけれど、実際どのようなものだったかは諸説あるらしい。
そういえば本文のほうでも、ライムンドゥス・ルルスは『遺書』(これって偽書だよね)が引かれている。「神はまずひとつのマテリア・プリマを創造し、それを三つに分割し、そのもっとも優れたっぶんで天使およびわれわれの霊魂を、その次に優れた部分で天界を、そして第三の部分でこの地上界を創造した」(p.25)。うーん、ルルスの『遺書』も確認してみないと。