去る8日は聖母マリアの無原罪の御宿りの祝日。フランスはリヨンなどでは窓辺にロウソクを灯す習わしが、今や光のショウに変貌していて盛況らしい(笑)。で、その聖母マリア信仰に関連してだけれど、これまたちょっと興味深い論考があったので読んでみた。「アルフォンソ10世、聖ヤコブ、聖母」というもの(Anthony Cárdenas-Rotunno, ‘Alfonso X, St. James, and the Virgin’, Latin American and Iberian Institute, University of New Mexico, 2009)(docファイルがこちらでダウンロード可)。
アルフォンソ10世の聖母信仰が、聖ヤコブ崇拝(サンティアゴ・デ・コンポステラ)への一種の対抗措置だった、みたいな説を以前聞いたことがあるのだけれど、この論文はそういった説への反論を唱えている。アルフォンソ10世が編纂したカンティガ集を読み直すことで、実は聖母マリアの崇拝が聖ヤコブ崇拝を補完するものであることを浮かび上がらせようという試み。カンティガ集の内容となる様々な奇跡譚が、どれもアンチ聖ヤコブではないということを実証的に論じていく。また、賢王アルフォンソが実利主義的な人物だったことをもとに、コンポステラの近くに聖母に捧げられた寺院を建造したことなども、対抗措置などではなく、むしろ領土政策上の政治的判断などもあってのことかもしれない、という可能性を示唆している。なるほどねえ。13世紀のマリア信仰の高まりは、一般に救済の内面化などに関連づけて説明されることが多いと思うのだけれど、そういう動きは一端成立してしまうと(言葉は悪いが)政治的に利用される面も当然出てくるというわけか(もちろん、だからといって賢王の信仰そのものを疑わしく扱うわけではないのだけれど)。こういう複合的な視野はやはり大事だなあと。