神をも騙す……読者をも?(笑)

このところ諸般の事情で、なかなかまとまった読書時間が取れないのだけれど(苦笑)、とりあえず空き時間をなんとか工面したりして、各書をちびちびと眺めている。で、そんな中、結構ドライブ感をもって読めた一冊が宮下志朗『神をも騙す−−中世・ルネサンスの笑いと嘲笑文学』(岩波書店、2011)。これ、邦語では紹介されていない珍しい版でもって、中世の様々な説話文学を読んでいくという趣向。それだけでもなんとも興味深い。まず取り上げられる「トリスタン」物語は、なんと13世紀のベルールの写本(断片)。タイトルの「神をも騙す」は、そのイズーの機転・狡知から取られているのだけれど、ほとんどこれは笑話(笑)。同著者も指摘するように、そこでのトリスタンとイズーはワーグナーやベディエのものとはまったく違う。続いて紹介されるのは『デカメロン』のカランドリーノ説話。さらにそれとの関連でヴィヨンの「恩赦嘆願状」その他の作品、さらにそのヴィヨンが主人公として描かれる『無銭飽食集成』、さらにはそれとも関連する『ティル・オイレンシュピーゲル』。そこではフランス語版やフラマン語版などとの文献学的比較なども行われていて、一段と興味をかきたてる。また、著者自身の語り口にもまたしゃれっ気があったりして(学問としての文学の狭量を皮肉ったりとか)それもまた楽しい読み物となっている。