最近、巡り合わせとしてあまり面白い暇つぶし本に出会わないなあと思っていたら、これはなかなか軽妙なエッセイだった。丹下和彦『食べるギリシア人ーー古典文学グルメ紀行』(岩波新書、2012)古代ギリシアの食について、いろいろな蘊蓄が楽しめる(笑)。ホメロスの叙事詩に出てくる英雄たちが何を食していたかとか、酒をめぐるいろいろな探索、海産物などの庶民の食、悲劇と喜劇に登場する食、排泄についてなどなど。個人的には、たとえば手拭きにパンが使われていたなんて話などは新鮮だった。手を拭いたパンはそこいらに捨てて犬の餌になっていたのだとか。また、喜劇には食の場面が多々登場するのに対して、悲劇にはほとんど見られないというあたりの話がとりわけ興味深い。食というのは、やはり悲劇のテーマ(復讐とか)にはなじまない。腹いっぱい食べてしまえば、恨み辛みなんかどーでもよくなってしまうということかしら……。満腹したエレクトラとオレステスって、ちょっと見たくないかもね(笑)。でも同書では、野外劇場という制約が、悲劇の場合、飲食を含む室内の描写を阻んだ可能性もあるとも指摘している。なるほど。ギリシア喜劇だと、最初から通して室内、という設定もそれなりにあるということか。ギリシアの喜劇作品とかこれまであまり読んでいないのだけれど、がぜん読みたくなってきたな(笑)。