ファフレッテン・オルグネル『ファーラービーの哲学』(三箇文夫訳、幻冬舎ルネッサンス)をざっと読む。この著者はトルコの研究者。そのせいもあってか、あまり取り上げられないファーラービーのトルコ人としてのアイデンティティをとりわけ強調というか、前面に出してみせている。西欧への影響関係とかイスラム思想の流れの話などで取り上げられる場合、アリストテレス思想のイスラム圏での注解者といった側面が強調されるファーラービーだけれど、実はそうしたトルコ古来の思想的伝統などが底流をなしているのではないか、というわけだ。というわけで、ファーラービー思想の背景としてトルコ文化を語った第三章や、第四章で触れられている、古代トルコの思想(天の階層)や仏教系の思想的伝統(10種の理性)などが残響をなしているといった話がとりわけ興味深い。また、これまた取り上げられることが少ないファーラービーの音楽理論について触れた第七章では、ファーラービー(やイブン・シーナー)の音楽に関する著書が、フランスの訳者を介して「アラビア音楽」として紹介された(1930年ごろ)ことを激しく批判している。ちなみにそのファーラービーの理論、同書の説明では二度音程(16:17、17:18の振動比率が挙げられている)を体系化したということなのかしら(?)。『大音楽の本』なるその著書を見てみないとわからないけれど……。また、同書で最も長い第六章は、アリストテレス系の論理学、形而上学、倫理学、政治学の、結構手際のよいまとめになっている感じで、有用かもしれない。