もう終わる展覧会だけれど、先日「風景画の誕生」展に足を運んだ。ウィーン美術史美術館所蔵作品の展示会で、なかなか見応えがあり、最近では珍しく図録も購入してしまった(笑)。主に宗教画の後景としてどこか抽象的で作り物めいていた風景描写が、次第に具体性を増しつつ前面に躍り出てくる様子がわかるという展示構成。いつしか主題そっちのけで画面全体を文字通り覆っていくところがとても面白い。参考展示の時祷書のコーナーなどはレプリカが手で触れるようになっていて、こういう触感的な展示もとてもいいと思った。
で、これに関連して(というか、ちょうど読みかけだからだけれど)ダニエル・アラスが『ディテール:絵画の近接的歴史のために』(Daniel Arasse, Le détail – pour une histoire rapprochée de la peinture, Flammarion, 1996)で触れているのだけれど、風景画は画布の表面を視線が這うようにして精査するという実践の最たるものだという。同感だ。風景画が風景画として成立するのは15世紀以降だという。表されている要素の豊富さが特徴で、歴史画などの細部の省略要請に反して、風景画は細部の過剰を許容していく、と。アラスは、そうした風景のディテールの楽しみについてアルベルティを引用し、それがもたらす散策の夢想についてディドロを引用し、その楽しみが細部への接近と遠ざかりとの「揺れ」と、それによる視線の解体、脱局所化dislocalisation)にあることをジラルダン侯爵を引用して指摘してみせている。なかなか見事な分析と筆捌き。