【書籍】情念の経済学

「経済学」の構築


 ガブリエル・タルドは『模倣の法則』で知られる19世紀後半の社会学者ですね。ドゥルーズなどが注目したことで、長い眠りから覚めたかのように、再評価されました。今回の『情念の経済学』は、著作集の刊行に寄せたブリュノ・ラトゥールとヴァンサン・レピネの序論です。

https://amzn.to/3syOpz6

 で、これはなかなか面白い一冊でした。経済学は社会経済を反映しているのではなく、むしろ経済(活動)のほうが、経済学があるからこそ成立する「構築物」であって、その経済学も、取り扱うごくごく限定的な数量で成り立っている限定的理論にすぎない、とタルドは考えていたとされます。経済学はもとより大雑把なもので、それが精緻化するには、価格とか商品の数量とかに限定されない、もっと広範囲の数量化が必要、と説いているのだ、と。

 同書の解釈では、たとえば需要と供給の関係が均衡するといったこともタルドは認めません。需要?供給?そんな実体があるのではなく、要は売り手と買い手との取引が、模倣の理論に則ってネットワーク化されていくだけだ、と。ネットワークがあるだけならば、実体としての社会というものもないんじゃないの、というところにまでタルドは行っている、といいます。結局、レッセ・フェールで放っておけば均衡するようなものは何もなく、社会というものがありうるとすれば、それを構成する成員たちが、意図的に働きかけをする以外にない、というわけなのですね。ラトゥールらのこうした解釈は、タルドの読みとして妥当かどうか検証の余地もあるかと思いますが、とても刺激的な解釈であることは間違いありません。タルド自身に、そうした先鋭的なところがあったのは間違いないでしょう。

 また、タルド自身が基本的に独学者(最近、独学は社会的なキーワードになってきていますね)であった事実も、なにやらとても刺激的です。