哲学者と老境

老境は必ずしも穏やかではないのか?


 『晩年のカント』(中島義道著、講談社現代文庫、2021)を読んでみました。いわゆる三批判書以降のカントの思想的足取りを、人間性を絡めてたどった良書。とくに、宗教に関する論考が検閲に引っかかってしまったことが、その思索全体に長く暗い影を落としたのではないか、というのがとても興味深いですね。その後の著作の計画が、当初のもくろみだった形而上学の構築から逸れたように見えたり、またある種の著作が検閲への反撃であるかのように読めたりすることを、著者は蕩々と説いています。

 と同時に、フィヒテとの間に生じた確執のように、独自の体系的な理論を構築し擁護し続ける哲学者の晩年は、えてして同業者たちとの決裂や孤立に彩られているといった話も言及されています。思想家の円熟期というものが、必ずしも心穏やかなものにはならないのは、世の常なのかもしれませんね。

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