ミステリー小説的「黄昏」

『十二神将変』『災厄の町』


 夏読書ということで、塚本邦雄『十二神将変』(河出文庫、2022)を読んでみました。もとは1974年刊。「日本語」というのは難しいものだなと改めて感じさせる、旧仮名遣い・漢字多めで黒い字面が並ぶミステリー小説になっています。辞書引きながら読むのは結構大変ですが、作者の塚本邦雄は現代短歌の第一人者とのことで、そのためか、言葉の織りなすリズムなどが心地よく、個人的には結構ハマりましたね。

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 描かれるのは、お金持ちというか、地元の名家・名士たちが密かに織りなす結社の世界。もうなんというか、それだけですでに、どこか隠微な、黄昏の風情を醸し出しています。それを、様々な小道具で飾り立てていて、そのあたりは一種のカタログ小説的でもあります(あらゆる小説は職業小説であると誰か言っていた気がしますが、あらゆる小説はカタログ小説、というのもまた言い得て妙かもしれません)。また、事件を暴く探偵役は誰かというのも、犯人は誰かと同様に、話を盛り上げている感じです。

 最近、エラリー・クイーンの『災厄の町』(早川書房、越前敏弥訳、2014)もkindle版で読みましたが、そちらもまた、地元の名家の黄昏を描きだしていました。これ、日本映画の『配達されない三通の手紙』の原作ですね。こうしてみると、古典的なミステリー小説というものが、ブルジョワジーの退廃に見事に対応している枠組・作品分野だということが、改めて実感できます。

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