権威って何?という一冊

手堅く各種の文献をまとめた一冊


 ミリアム・ルヴォー・ダロンヌ『はじまりの権力——権威についての詩論』(Myriam Revault d'Allonnes, “Le Pouvoir des commencements. Essai sur l'autorité”, Seuil, 2006)のKindle版(https://amzn.to/3FF7UaB)を、このところ読んでいました。年越し本になるかな、と思っていましたが、年内に読み切れました(笑)。 

 一言でいうと、長編の学術論文の見本みたいな一冊で、様々な文献を精読しながら、論を進めていきます。テーマはずばり「権威とは何?」で、初っぱなのあたりから、それが(空間に働きかけるる権力とは対照的に)時間に根ざし広がるものであることを示唆します。この仮説を検証していくのが同書、ということになります。

 ギリシアとの対比からローマ時代に「権威」が初めてテーマ化されることを、アーレントをもとに論じ、近代になって(神々などの)権威の「過去」の源泉が失われたことをルソーやトクヴィルで論じ、新たに権威の根拠として「未来」に目を向ける近代人の指向性を、ウェーバーで論じていきます。なかなか王道ですね。

 ここまでは、社会学的な側面からのアプローチでしたが、そこに、個人の指向性の向かう先としての権威と、制度としての権威のギャップという問題が出てきます(主体と客体、あるいは未来と過去との齟齬です)。それを扱うために、著者は次に現象学へと歩を進めていきます。しかしながらそのギャップは、どの現象学者でもなかなか十分には論じられません(と著者は指摘します)。フッサールしかり、メルロ=ポンティしかり、シュッツの社会現象学しかり。リクールなどの読みも今ひとつ。著者がいうように、果たして制度の問題は、思考が明確に及ばない情動的な外部、過剰、補遺なのでしょうか。著者はそこに、生きる主体がまとう「歴史性」を重ねています。

 

(初出:deltographos.com 2021年12月30日)

聴く読書も悪くない

kindleで聴くカミュとか


 実に久しぶりに(学生時代以来ですかね)、カミュを再読してみました。再読というか、今回はkindleの読み上げ機能(Fireタブレット上)で、フランス語版の朗読(と言っていいの微妙かもしれません)を聴いてみました。コロナ禍で人気が出たという『La peste』です。ずっと昔に日本語で読んだことがあります。たぶん新潮文庫。今回、仏語で聴いてみて、その詩的ながらジャーナリスティックで淡々とした文体が、音声での読み上げに妙に映えることを改めて感じました。これは個人的には収穫です。

 https://amzn.to/3KKmb9a

 この仏語版は通常の購入ですが、最近、kindle unlimited(図書館で借りる、みたいな感覚ですが)の冊数制限が20冊までに拡大したので、そちらも一気に利用が進んでいます。少しだけ仏語版もあったりしますが、日本語ものが大半。日本語で読むにしても、kindle unlimitedの文芸作品は古典もの(の翻訳とか)が大半で、いきおい中学生の本棚みたいになってしまいます(苦笑)。で、19世紀から20世紀前半くらいまでの小説などは、今読むとその描写のねちっこさなどが鼻につくし、眼にもきついので、ついつい飛ばし読み的になってしまいます。音声で聴くなら、少しゆっくりできる感じになります。

 そんなわけで、聴く読書というのも悪くないかもしれません。ちょうどAmazonのaudibleのサービスが聴き放題になるみたいですし、ラインアップさえ充実してくれるなら、そちらも一考の価値があるかもしれません。

(初出:deltographos.com 2022年1月26日)