「古楽 – バロック以降」カテゴリーアーカイブ

ヒンターライトナー

リュート奏者ルッツ・キルヒホフの新譜はフェルディナンド・イグナス・ヒンターライトナーという17世紀の作曲家のリュートのための協奏曲『音楽の奇跡』(Musical Miracles -F.I.Hinterleitner / Lutz Kirchhof(lute)icon)。協奏曲というわけで、ヴィオラ・ダ・ガンバとパルドゥシュ・ド・ヴィオールが参加している。でも、リュートのための協奏曲というだけあって、主役はリュート。だから通奏低音に回るのではなく、ちゃんとメロディにも絡む絡む……。とても珍しい(笑)。また、全体的に舞曲っぽさが前面に出ているのも個人的に好ましい(なんだか本当に踊れそうな感じ)。このヒンターライトナーという人物、詳細は不明。ライナーには、リュート協奏曲を1699年にウィーンで出版したとあり、フランスのリュート曲のリズミカルな様式と(ジャズっぽいとか書いている)イタリア式の旋律の動きとを結合させている、みたいに書いている(キルヒホフが)。でも全体的にはとても好印象でノレる。ぜひタブラチュアを見てみたい……。


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ヴィヴァルディの「ヴェスペロ……」

おー、これは納得の一枚(笑)。『ヴィヴァルディ:聖母マリアの夕べの祈り』。珍しいヴィヴァルディの宗教曲集。ヴィヴァルディだけに器楽曲重視のミサ曲。これはなかなかご機嫌だ。軽やかさと賛美が入り交じったハイパフォーマンスという感じ。演奏はムジカ・フィアータ、ラ・カペラ・ドゥカーレ。指揮はローランド・ウィルソン。別に新しもの好きというわけでもないのだけれど、2003年と2005年にドレスデン・ザクセン州立図書館で見つかり、ヴィヴァルディのものと特定されたというRV 807 Dixit DominusとRV 803 Nisi Dominusが収録されている(世界初録音というわけではないそうな)のも興味深い。二曲ともなかなかに豪華絢爛。一枚でいろいろな要素が楽しめるお得盤かも(笑)。

Vivaldi: Marienvesper -Domine ad Adjuvandum me Festina RV.593, etc / Roland Wilson, Musica Fiata, La Capella Ducale

リュートtube 3

エグエスによるヴァイス「L’infidèle」の演奏。2006年のものらしい。CD収録のものよりは地味に弾いている感じ。映像の音はあまり良くないし、映像は組曲全体を3つに分割していて、いきなりブチっと切れるのがちょっと難点。ま、ご愛敬でしょうかねえ。とりあえず3分割のうちの1つめを挙げておこう。

連休明けの余波……古楽編

ラ・フォル・ジュルネでファビオ・ビオンディらが弾いたテレマンの組曲「ドン・キホーテ」が気になって、どんな録音があるだろうかと思って探したら、なんとバーバラ・ヘンドリクスを支えていたドロットニングホルム・バロック・アンサンブルによる2001年の盤がiTunesに出ていた(こちら→Drottningholm Baroque Ensemble - Don Quixotte - Suites By Telemann

わぉ。この団体、個人的には知らなかったのだけれど、かなりのCDを出している老舗だったのね(71年の結成だとか)。なるほど、どうりで落ち着いた風情を感じさせる演奏だったわけだ(今さら言うか(笑))。このドン・キホーテ組曲もビオンディ的な激しさはないけれど、実にいい感じ。

また、ラ・フォル・ジュルネで聞きそびれたリュート奏者のエドゥアルド・エグエスも、会場に出ていたショップに新譜があったので購入。こちら→L’Infidele~異邦人 -S.L.ヴァイス: リュート作品集 / エドゥアルド・エグエス。国内版。ここではinfidèleを「異邦人」と訳しているのがいい(個人的には「異教徒」くらいかと思うけれど……従来の「不実な女」は誤訳だと前にも書いたことがある)。実際演奏も、表題のソナタのメヌエットあたりに出てくる東方っぽい(トルコ?)音が見事に強調されている。前の来日公演のときにヴァイスを聴いて、いつかヴァイスだけの録音が聴きたいと思っていたけれど、それが実現して個人的にはとても嬉しい。この人のヴァイスは本当に色っぽい(笑)。ロバート・バルトなどのどこか禁欲的・求道的で、ひたすら深みに潜っていくような演奏とは対照的に、全体にしなやかで華麗。装飾音などもたくさん散りばめられて、とてもたおやかなで華やいだヴァイス。うーん、まさに不意打ちという感じ。繰り返し聴きたくなる演奏。おすすめ。

ラ・フォル・ジュルネ、今年も

有楽町の東京国際フォーラムで5日までやっている「ラ・フォル・ジュルネ–熱狂の日音楽祭」。フォーマットに飽きたと言いつつ今年も出かけた。しかも二日連続(苦笑)。なにせ今年はテーマがバッハで、もの凄く濃いバロック音楽祭になっているもんだから、こちらも気合いを入れて出かけたというわけ。各日三公演づつを堪能。以下メモっておこう。

一日目、最初は来日中止になったサンフォニー・マラン・マレに代わる若手グループ「ラ・レヴーズ」。テオルボ奏者(バンジャマン・ペロー)が指揮をするというのが珍しい。技術はともかくどこかまだ「荒削りっぽくない?」みたいな、でも結構今後に期待できそうなグループ。曲目は変更があって、BWV1027(ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ1番)、BWV912(トッカータ・ニ長調)、ラインケンのパルティータ4番ニ短調。続く二つめの公演はリチェルカール・コンソート(フィリップ・ピエルロ指揮)によるBWV235ミサ曲ト短調、BWV243マニフィカト・ニ長調。ベルギーのグループ。最近の流れという感じだけれど、古楽系というのを感じさせないオーソドックスで重厚感のある演奏だ。もちろん宗教曲はこれくらいがいいのだけれど。それと対照的なのが、三つめのエウローパ・ガランテ。ファビオ・ビオンティ率いるこのグループはもうすぐ20周年になるそうで。一世を風靡した爆走系(失礼)だけれど、期待通り疾風のような圧倒的ヴィヴァルディ(シンフォニア・ト長調と、「ラ・ストラヴァガンツァ」から)。けれども単に爆走というわけでもなく、パーセルなど、このグループにかかると、なんだか緩急取り合わせて妙な色つやに彩られる(笑)。コレッリの合奏協奏曲作品6もそう。自在な音のさばき方はまさに名人芸。というわけで、これは名演でしょうね。アンコールはテレマンの組曲「ドン・キホーテ」から。これも見事な対比具合。このグループのテオルボ奏者はジャンジャコモ・ピナルディという人らしいのだけれど、これがやけにクリアな音を出していた(ほかのリュート属と違い、テオルボは爪で弾くのもアリなんだそうで、この人などはもろ爪でもって弦をバシバシ言わせている(苦笑))。

二日目はまずピエール・アンタイ指揮でル・コンセール・スピリチュエルによるバッハのコラール・カンタータ2曲(BWV178と93)から。うーん、午後のけだるいときにこの手のカンタータは禁物か。ついつい舟をこいでしまう(笑)。続いてバーバラ・ヘンドリクスほかのペルゴレージ「スターバト・マーテル」。伴奏はドロットニングホルム・バロック・アンサンブルというグループなのだけれど、メンバーなどの情報は不明(パンフに未記載……ってどういうことよ?)。ヘンドリクスはさすがに大物の貫禄というか、お手のものという感じの「スターバト・マーテル」。ものすごいビブラートのかけっぷりに、最初は個人的にちょっと引いた(笑)。でも全体としては迫力勝ち。さかんにブラヴォーが出ていた(えーと、本当はブラヴァですけどね)。締めとなったのはラ・ヴェネクシアーナ(クラウディオ・カヴィーナ指揮)によるブクステフーデ「われらがイエスの御体」。これもすばらしい。もともと隠れた名曲という感じで、生で演奏される機会というのはほとんどないと思う本作。個人的にも生演奏で聴くのは初めて。CDで聴くと結構反復部分などが耳に残ったり、半ば過ぎくらいには弛緩して聞き流すみたいになってしまうことも多いのだけれど(苦笑)、生演奏だとぐいぐい引き込まれるから不思議だ。というか、それくらいの演奏だったということかな。ラ・ヴェネクシアーナというと、モンテヴェルディもののCDくらいでしか知らなかったけれど、ブクステフーデもとても良い。これまた収穫。

明日は行かないので今年はこれで打ち止めだけれど、全体としてバロック系のスター奏者らがこれだけ一堂に会する機会というのはあまりないわけで、このイベントが今後も続くようなら、何年かに一度はバロックものでやってほしいところ。