「古楽趣味」カテゴリーアーカイブ

「聖アレッシオ」

ウィリアム・クリスティ率いるレ・ザール・フロリサン。久々にその演奏をDVDで堪能する。ステファノ・ランディ(1587-1639)の音楽悲劇『聖アレッシオ』(Virgin Classics)。これはなんとも素晴らしい舞台だ。1631年の初演という初期のバロックオペラを、2007年にカーン(Caen)で上演したもの。まずもってヴィジュアル的に圧倒される。照明をロウソクの灯りで取るという手法のせいか、画面全体が赤みを帯びて、まるで生きた宗教画を見ているかのよう。少年合唱団が羽根を背に天使の役などで登場するが、それも全体の絵の中にとけ込んで違和感がない。うーん、お見事。演出のバンジャマン・ラザールという人はバロック劇の権威なのだそうで、なるほどと納得。また演奏も実に渋く、またバロックダンスなども随所に取り入れて見所もたくさん。クローズアップを多用したカメラワークは、時に人物の登場場面などを逃してはいるけれど、それでも主要な人物たちの微細な表情や仕草(これがまた実に絵画的)を細やかに追っていて上質。中身は、ヤコブス・デ・ヴォラギネの『黄金伝説』に出てくる聖アレッシオ(アレクシス)の最後の方の物語を三幕で構成したもので、すでに決定的な時(アレッシオの婚礼からの逃避、放浪など)は終わり、失われてしまっていて、いわば「残りの時」を抒情的に描き、歌い上げている。決定的な事件はすでに起きてしまっているという点で、ワグナーの「トリスタンとイゾルデ」なんかを彷彿とさせるかもね(笑)。

[古楽] カンタータ集2種

久々にバッハのカンタータ集を、立て続けに2種類ほど聴く。一つはある意味で定番のヘレベッヘ+コレギウム・ヴォカーレの新しい録音。『わが命なるキリスト』(J.S.Bach: Cantatas / Philippe Herreweghe, Collegium Vocale Gent, Dorothee Mields, Matthew White, etc)。これはなかなかに渋い一枚。ヘレベッヘはこのところ、再び古楽方面に返り咲いてきたみたいだけれど、以前にも増して精神性豊かな、静謐感の漂う演奏。曲はBWV27「わが終わりの近きをだれぞ知らん」、BWV84「われはわが幸いに心満ちたり」、表題作のBWV95、そしてBWV161「来たれ、汝、甘き死よ」。もうすぐアドベントだけれど、これはその辺りにぴったりな感じがしなくもない……曲想はちょっと暗めか。

もう一枚は一種の企画盤。『モン・サン・ミッシェルでの音楽−−バッハ』(Musique au Mont-Saint-Michel -J.S.Bach Concert 2007 / Emmanuel Olivier, Ensemble Galuppi)。フランス北部のモン・サン・ミッシェル修道院での2007年のライブ録音らしいのだが、ちょっと場の臨場感は感じられない。とはいえ、曲はどれも華々しい感じで盛り上がる(笑)。なかなかご機嫌だ。上のヘレベッヘのものとはまさに対照的。エマニュエル・オリヴィエ指揮、BWV149「人は喜びもて勝利の歌を歌う」、BWV19「いさかいは起これり」、BWV130「主なる神よ、われらはみな汝を讃えん」。どれも聖ミカエルの竜退治を語ったものということで、なるほどその繋がりでモン・サン・ミッシェルでの演奏となったということか。

さて、ヘレベッヘ盤のジャケット絵は、ルーカス・クラナッハ(父)による「キリストとサマリア女」(1540年、ライプチヒ美術館所蔵)。この様式美がまたなんとも言えない……。