「古楽趣味」カテゴリーアーカイブ

新年のヴァイス

明けて2009年。今年もどうぞよろしく。というわけで昨年末もそうだったけれど、年末年始のような節目は個人的にリュート曲を聴いて過ごしたい。今年はとりあえず、毎年出ているロバート・バルトによる全曲録音を目指すシリーズから最新の『リュート・ソナタ第9集』(Naxos、8.570551)(Weiss: Lute Sonatas Vol.9 / Robert Barto)。少し前に購入していたものの「積ん聴」になっていた。今回はソナタ52番ハ短調、32番ヘ長調、94番ホ短調の構成。相変わらず、バルトの円熟味というかなんというか、ヴァイスの曲と濃密な時間を過ごしていることが窺える一枚。リスナー側もそのお裾分けをもらっている感じ。充実した約1時間を味わえる。

今回のジャケット絵はアントニオ・ドメニコ・ガッビアーニ(1652 – 1726)による『リュート奏者の肖像』の一部。フィレンツェの楽器博物館所蔵なのだとか。全体は次のような感じ。
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今年のクリスマス向けCD

例年この時期はいろいろと注目盤とか掘り出し物のCDがあるけれど、数あるクリスマス向け企画盤のうち、今年はアルテ・ノヴァが以前出していた『Ein festliches Weihnachtskonzert – a Christmas Concert』(74321 31681 2)を聴く。先月ごろまでHMVが超格安で売っていたが、現時点では完売した模様。でもまあ、今後再版があるかもしれないし、一応取り上げておこうかな、と。で、これがまた実に秀逸な3枚組。1枚目はコレギウム・モーツァルテウム・ザルツブルクの有志らによるイタリアもの。スキアッシ、ロカテッリ、トレッリ、ヴィヴァルディ、マンフレディーニ、コレッリと続く。軽やかさはそれほどでもないけれど、逆に落ち着いた雰囲気の演奏は、ちょうど季節的にもマッチしている感じだ(この1枚目は、ちょっとだけ上のHMVのサイトで試聴できる)。2枚目はカンタータ類。演奏はハンブルク・ソロイスツ。バッハ作曲グノー編曲のアヴェ・マリアや、ドメニコ・スカルラッティのカンタータ(結構珍しいかもね)、ガルッピ、ベルンハルトなど、なかなか厚みのあるプログラム。3枚目はテレマン、ヴェルナー、サマルティーニ、ハイドンなどで、華やいで、しかも情感豊かな曲が並ぶ。いや〜なかなか聴き応えも十分。どうやらこれ、レーベルでリリースしたものの寄せ集めらしい(解説のライナーはついていない)けれど、こういう企画ものは今後も大いに歓迎したいところ。

ジャケット絵はフラーテル・フランケ(マイスター・フランケともいう)の『トマス祭壇画』から「東方三博士の礼拝」。1424年作のテンペラ画で、ハンブルク美術館所蔵とのこと。フラーテル・フランケはドメニコ会士。当時の「国際ゴシック様式」(シエナ派起源で、自然の描写などが特徴的とされる)の代表格。

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「ロザリオのソナタ」

バロック・ヴァイオリンのパブロ・ベズノシウク以下4人によるビーバーの「ロザリオのソナタ」ダイジェスト版の公演を聞きに行く。16曲から成る「ロザリオのソナタ」のうち、10曲のプログラム。ところがこれがなかなか壮絶なことに……。前半の最後「磔刑」の途中で、なんだかヴァイオリンの音がおかしくなった。げ、楽器がイカレた?と思ったら、イカレたのは演奏者の手(手首?)のほうだった……(楽器の方を先に心配してしまうのは、リュート弾きならではのリアクションだ……反省)。つったらしい(これってプロならでは?弾きすぎ?)。で、演奏ストップで前半終了。後半はその頓挫した部分から再開。で、後半プログラムも3曲を終えたところで予定になかった休憩。ベズノシウクは曲の合間に数回、手を振り払うしぐさをしていた。なんとも痛々しい感じで、もう最後の「守護天使」(パッサカリア)のヴァイオリン・ソロ(これは実に美しい曲だけれど素人目にもかなり難しそう)などは、頼むから弾ききってくれよ〜という感じで、会場の多くの人が祈るような気持ちで応援していたのでは?うーん、なんともめずらしい状況だ。

でも、1曲目の「受胎告知」などは、テオルボ(キタローネ)とヴァイオリンによる実に感動的な演奏だった。これは名演か、と思われた矢先の上のトラブルのせいで、聴いているこちらも微妙に落ち着かなく集中しきれなかった。ちょっと残念。これまた渋くキタローネを弾いていたのはポーラ・シャトーヌフという女性奏者。小柄なためにキタローネがやたらでかく見える(笑)。今回は6台ものヴァイオリン(調弦がそれぞれ違う)を用意しての公演。13日と14日の午後に、それぞれ東京と兵庫で全曲版+朗読の公演が予定されているけれど、そちらはチケットは完売だったような……。(画像は彼らが出しているその全曲CD)。

パーセルのイギリス性?

最近録画とかが溜まってしまい、9月にBS2で放映された6月のアンドリュー・マンゼとリチャード・エガーのリサイタルをようやく最近になって観た。とくに後半のビーバー(「ロザリオのソナタ」から「受胎告知」と、「独奏バイオリンのためのソナタ集」から3番ヘ長調)がいい感じ。息もぴったりのコンビだけれど、チェンバロはここではあくまで補佐役。で、そんなわけで、エガーの最近のチェンバロ独奏ものをCDで聴きたいと思い、選んだのがこれ。『パーセル:鍵盤組曲とグラウンド』(HMU 907428)。パーセルの鍵盤組曲8曲を華麗に軽やかに弾いていて、なにやらどこかしら清涼感が漂ってくる感じ。

ライナーを見ると、エガーのテキストでチョコレートに言及したりしている。17世紀半ばのイングランドでは、フランス経由でチョコレートがはいってきて、1657年に初めてロンドンに専門店が設立されるのだという。1パウンド10から15シリングで、当初はエリート階級の「飲み物」だったという。ロールやケーキに使われるようになるのはもう少し先とのこと。またチョコレートにはダークな面もあり、毒殺などの場合に毒の味を消すものとしても用いられたのだとか。なるほどチョコレートか。そう言われると、パーセルの音楽は上質のチョコレート風味みたいなものもあるかもなあ、と。エガーはこの話、パーセルの謎の死にからめて引き合いに出しているのだけれど、それとは別に、パーセルの音楽についてもコメントしている。フランスのリュート音楽の「style brisé」(アルペジオを多用し曲の輪郭をぼかすスタイル)の影響を受けつつも、きわめてイングランド的なのだという。うん?イングランド的?エガーはそれを、ひねりや風変わりさ、エキセントリックさみたいに言う。個人的には、イングランドものって様式的にかっちりしていて、大陸もののような変な音が突然出てくるみたいな部分はあまりないと思っていたのだけれどなあ……。

ジャケット絵はコーネリウス・ジョンソン&ジェラード・ホークギースト作の「大英帝国のヘンリエッタ・マリア妃」の一部らしいのだけれど、残念ながらこの絵はネットではさしあたり見つからず(?)。また、まったくの余談だけれど、チェンバロつながりで言うと、やはり9月のBS2で放映していた中野振一郎のチェンバロ(ブランシェ作のオリジナル楽器だそうだ)演奏もとても端正で充実していた。2007年の浜松での公演で、クープランやラモーなどフランスもののプログラム。

クロマニョン・サウンズ

瞑響・壁画洞窟少し前に旧ブログのほうで取り上げた土取利行『壁画洞窟の音』(青土社)。レ・トロワ・フレール洞窟の訪問を軸とし、壁画洞窟そのものが巨大な「楽器」(共鳴装置としてのリトフォン)をなしていたのではないかという仮説を紹介し、その演奏の体験記などが綴られていたのだが、クーニャック洞窟でのその同氏の実演を収めたCD、『瞑響・壁画洞窟–旧石器時代のクロマニョン・サウンズ』(VZCG-687)をようやく聴く。すべてオリジナルの各曲は、石を木や指で叩くとか、骨笛や鼻笛を一定間隔で鳴らすなどの、リズムのみを前面に出したミニマル・ミュージック的なもの。環境音楽的に楽しめる。うーん、でも、音の高低などでの反響の違いとかはどうなんだろうなあ、と思ったりもする。おそらく原始的な音って、もちろん反復動作もあったろうけれど、動物の鳴き声とかを真似て再現しようとするようなものだったりもしたのでは、と思う。そういう声その他の音を取り入れたパフォーマンスも聴いてみたいなあ、と。ま、ともかくうちの再生装置は貧弱なので、洞窟内の雰囲気も再生でいていないほどなのだが(苦笑)、一応これはSHM-CDという、素材的に改良したCDなのだとか。ライナーノーツは土取氏のインタビューで、上の書籍の部分的なエッセンスがまとめられている感じの話になっている。