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『賃労働と資本』

トリクルダウンなど端からありえなかった


 kindle unlimitedでの読書、今度はマルクスです。『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』(森田成也訳、光文社古典新訳文庫、2014)から、とりあえず前半にあたる「賃労働と資本」を読んでみました。マルクス読むのは学部生時代以来、うん十年ぶりです。歳月の流れを感じますねえ。

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 中身的にも、この「賃労働と資本」は『資本論』の最初のほうと重なる感じです。「労働者にもわかりやすいように書いた」と言うだけあって、読みやすいです。資本家がひたすら財をためこもうとし、ほおっておくと労働者に還元することなど金輪際ありえないことを、切々と訴えている感じです。これを読んでも、アベノミクスの異次元緩和の初期段階で盛んに言われたトリクルダウンなんて、最初から起きようがないことがよーくわかります。

 個人的な思い出を言うと、学部生のころ、マルクスの資本論と、マルティネの機能言語学とを同時期に読んだせいか、生産過程を決定づけているとされる二重構造と、音韻の二重分節の話とが妙に呼応し、単一の現象を二重のプロセスとして見る、あるいは読み解く可能性が、深く心に刻まれたように思います。そうした二重性は、ある種の解釈でしかないのかもしれませんが、少なくとも当時は、あらゆる事象に意味論的な構造として実在するかのように感じられ、ひどく高揚したものでした。これ、結構長く尾を引いた気がします。


(初出:deltographos.com 2022年11月6日)

とり・みきの中短編を読む

kindle unlimitedに入っていたので、とり・みき氏の中短編集を3冊、まとめて読んでみました。『山の声』『パシパエ—の宴』『トマソンの罠』です。

お恥ずかしいのですが、とり・みき氏の名前は『プリニウス』の共著者として初めて知りました。今回、これらの中短編集を読んでみて、変幻自在の作風をもつ方なのだなあ、と認識しました。下ネタのナンセンスギャグから、諸星大二郎を彷彿とさせる民俗学的な伝奇ホラー、ファンタジックなSFまで、多彩な作品が収録されています。

ほかの過去作も、読んでいきたいと思いますね。