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書籍:『土とワイン』

土壌からのワインへのアプローチ


 アリス・ファイアリング、パスカリーヌ・ルペルティエ『土とワイン——土壌が教える自然ワインと造り手たち』(村松静枝訳、小口高・鹿取みゆき監修、エクス・ナレッジ、2019)にざっと眼を通しました。土壌がワインに与える影響についての本なのかな、と思って見始めたのですが、そうではなく(科学的な本ではないことは序文冒頭に宣言されています)、むしろ土壌(の分類)に注目したかたちでのワイン産地のガイド本、あるいはエッセイ本という体裁です。

 考えてみると、ヨーロッパの土壌の分布については、個人的にあまり知りませんでした。その意味で、これは刺激的な一冊でもあります。ワインそのものと土壌の関係性は科学的には立証されていないとのことですが、普通に考えて、ブドウの生育と土壌に関係がないわけはありませんから、こういう土壌をベースにしたアプローチも一概に否定はできないかも、という印象です。

 百科事典を書くつもりはなかった、と巻末に著者が記していますが、これは一種の産地別のガイド本と言えそうなので、できれば索引はもっと充実させてほしかったですね。あと、やはり科学的な知見もある程度体系的にまとめてほしいところでしょうか。

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書籍:『旅ごころはリュートに乗って』

巧みな地雷回避と中世への旅


 星野博美『旅ごころはリュートに乗って——歌がみちびく中世巡礼』(平凡社、2021)を読了しました。「リュート本?」と思ったので見てみたのですが、これはむしろ触発を扱った本、という感じでした。リュートがきっかけとなり、「モンセラートの朱い本」「聖母マリアのカンティガ集」をめぐり、それらから触発されて、歴史的な旅へと出立する……そういう趣向で、とても楽しく読めます。

 この、リュートをあくまできっかけとして使うというところがミソで、おそらくはノンフィクション作家の勘とでもいうのでしょう、リュートやビウエラを扱ったエッセイがついつい踏んでしまう地雷を(リュート界隈は、ある種の狭い特殊な世界なので、うるさがたが多く、下手なことをろくに調べずに書くと、いろいろなところから総つっこみされてしまいます(笑))、巧みに回避しているところがすごいですね。

 タブラチュアが残っている曲だけ弾く、というある種の制約から、リュートを解放しよう、というのは、個人的にも、とくに最近は、諸手を挙げて賛同したいです。

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書籍:『武器を持たないチョウの戦い方』

「人間の視点」がバイアスになるとき


 竹内剛『武器をもたないチョウの戦い方——ライバルの見えない世界で』(京都大学学術出版会、2021)を読了しました。チョウの研究者の体験記をまとめたものですが、これがめっぽう面白いです。著者はチョウの専門家で、一般に縄張り行動として理解されているチョウの雄同士の飛翔行為が、もしかするとそういうものではまったくないのでは、という新しい説を唱えています。その説にいたる経緯や、そこから後の学界での認知をめぐる闘いなど、研究者としての半生を振り返る感じですね。

 「人間の視点」で物事を考える姿勢がバイアスになって、真実が見えなくなっているのではないかという指摘が、とても印象的です。

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『驚きの化学(Étonnante chimie)』

応用化学の一般向け解説本!


 Claire-Marie Pradierほか編『Étonnante Chimie – Découvertes et promesse du XXIe siècle』 (CNRS Editions, 2021)を読んでみました。応用化学の前線で活躍する研究者たちが、それぞれ入門的な概説を寄稿した、一般向けの入門書もしくは教科書ですね。

 領域横断という意味で、これは素人目にはとても刺激的な本に仕上がっています。化学は現代人にとってはなくてはならない重要な学問ですが、その応用範囲の広がりは、宇宙生物学から絵画修復、考古学、植物学、海洋学、気象学、エネルギー関連分野、電子工学、分子工学、素材学、医療分野、科学捜査などなど、実に多岐にわたるというか、ほとんど漏れている分野などないかのようです。そのそれぞれについて、いかに化学が貢献し刷新をもたらしているかが語られていきます。高校生くらいなら、こういうのを読んで、そうした道に進みたいと思う人がきっといるでしょうね。フランク・ハーバート『デューン(砂の惑星)』に出てくる「スパイス」というドラッグの話なども取り上げています。

 ところどころに差し挟まれる、少し変わった偉人たちの紹介も面白いです。ラヴォワジエの妻マリー=アンヌ・ポールズから始まって、化学専攻だった作曲家ボロディン、ドイツのメルケル首相(物理学者として紹介されることが多いですが、博士論文は量子化学の分野のものだったとか)、マリー・キュリーの娘イレーヌ・キュリー、化学者でもあった作家のプリーモ・レーヴィなどなど、どれも興味深い案内ばかりです。

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Early Greek Philisophy VI

第6巻の主役はアナクサゴラス、でも……


 Loebのギリシア初期哲学集成、6巻目は「後期イオニア・アテナイの思想家たち」のパート1。書籍の大きな部分を占めているのは、アナクサゴラスについてのテキストですね。ほかにアルケラオスやアポロニアのディオゲネス。アナクサゴラスの、ヌースと無限のヒューレー(物質)が世界の本源である、という思想は、アリストテレスあたりをいったん通過していると、意外性はあまりないかもしれません。もちろん思想史的な重要性は別ですけれど。アルケラオスは世界の本源は火と水(熱・冷)だとしていますね。

 個人的にはむしろ、アポロニアのディオゲネスが面白いと思いました。世界の本源は空気であるとし、その濃淡によって様々なものが生成するとされ、魂もまた空気にほかならないのだ、なんて説いていますね。呼吸のコスモロジー。あれ、これってどこかで聞いたような(笑)。

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