書籍:『旅ごころはリュートに乗って』

巧みな地雷回避と中世への旅


 星野博美『旅ごころはリュートに乗って——歌がみちびく中世巡礼』(平凡社、2021)を読了しました。「リュート本?」と思ったので見てみたのですが、これはむしろ触発を扱った本、という感じでした。リュートがきっかけとなり、「モンセラートの朱い本」「聖母マリアのカンティガ集」をめぐり、それらから触発されて、歴史的な旅へと出立する……そういう趣向で、とても楽しく読めます。

 この、リュートをあくまできっかけとして使うというところがミソで、おそらくはノンフィクション作家の勘とでもいうのでしょう、リュートやビウエラを扱ったエッセイがついつい踏んでしまう地雷を(リュート界隈は、ある種の狭い特殊な世界なので、うるさがたが多く、下手なことをろくに調べずに書くと、いろいろなところから総つっこみされてしまいます(笑))、巧みに回避しているところがすごいですね。

 タブラチュアが残っている曲だけ弾く、というある種の制約から、リュートを解放しよう、というのは、個人的にも、とくに最近は、諸手を挙げて賛同したいです。

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