エコノフィジックス

昨日のエントリの『考える人』春号は、人気の内田樹氏がなにやら大活躍していて、特集にレヴィナス関連で寄稿しているほか、対談も二本。そのうちの一本がこれまた人気の福岡伸一氏とのもの。フェルメールの絵を枕に(そのうちの一枚に、初期の顕微鏡を作ったレーウェンフックという人がモデルになったのではないかという絵があるのだそうだ)、動的平衡の話とかにからめて経済の話に突入していくというある種ハイブロウな(?)対談。ここで内田氏が、経済というものは貨幣とか商品価値とかではなく、ただ「グルグル回す」だけのシステムなのでは、と放言し、これに福岡氏が、生命が行っているのも同じ事、と掛け合っている。そういえば経済がカオス的・複雑系だというのは、ちょうど最近まで移動中読書として読んでいた、高安秀樹『経済物理学(エコノフィジックス)の発見』(光文社新書、2004)にも論じられていたので、個人的にはちょっとタイムリーな感じだ。この本、複雑系の理論を経済に応用するという研究をわかりやすく紹介するというもので(というか、フラクタル理論そのものが経済の研究から生まれたという話なのだそうで)、具体的な事例に則してとても興味深い話が展開している。ま、巻末のある種の理想論の提言などはさしあたり置いておくとして、従来の経済学とは違うアプローチがありうることや、今後のさらなる発展が見込まれることだけは強く印象に残った。門外漢ながら、経済学のような分野にも近年、旧来とは違う学問的刷新の風が吹いていたのだなあというのが、なにやら新鮮だったり(笑)。オッカムとかが中世哲学にもたらした革新のインパクトくらいあるんじゃないかしらなんて空想したりとか(笑)。

聖書学

新潮社が出している季刊誌『考える人』2010年春号を書店で見かける。ちょうど復活祭だからというわけでもないのだけれど(今年は東方教会も同じ日なんですね)、特集が「はじめて読む聖書」で、とりわけ聖書学者の田川建三氏のインタビューに惹かれて購入。田川氏というと、個人的には以前読んだ大部の『書物としての聖書』(勁草書房、1997)が結構記憶に残っている。今回のインタビューは同氏の研究者としての軌跡がかなり詳しく述べられている。とりわけザイール大学への赴任のくだりが印象的。帝国主義というものを肌で感じ、それによってヘレニズム世界がどういうものだったかという推察につながったというあたりが鮮烈だ。世界的なスケールと反骨精神をもった聖書研究者としての素顔の一端が垣間見える。すばらしい。氏の最近の著書も読んでみることにしよう。

15世紀の医療環境

届いたばかりの書籍をさっそく眺める。エーリック・アールツ『中世ヨーロッパの医療と貨幣危機』(藤井美男監訳、九州大学出版会)。うーむ、100ページ足らずで値段は結構するが(論文3本収録という感じ)、それでもまあ参考になる内容なのでまあいいか……(若干苦しいけれど)。こういう感じの出版形態は今後増えていくのかしら……。ま、それはともかく、とりあえず15世紀のブラバントでの医療状況についてまとめられている第一章を読む。1430年に若くして急死したブラバント公のフィリップ・ド・サン・ポールについて、その検死に関する史料を検討しつつ、当時の医療体制について記していくというもの。当時はすでに、南ネーデルランドに医療ギルドができていて、それ以前には卑しい職業とされた外科医の社会的地位が上がってきているのだという。その若きブラバント公にはどうやら胃に潰瘍かなにかがあったらしいのだけれど、その内科的な処方は総財務府の会計簿からわかるという。当時のはやはり「漢方」という感じ。また死後の防腐処理のくだりも興味深い。古代のミイラ化などの技術は完全に失われていて、結局は内臓を抜き取り、香草を詰めたり包んだりして塩を振りまくだけ……。ちょっと血なまぐさいが(苦笑)、バラして別々に埋葬なんてやり方もあったという(ドイツ方式)。うーむ、こういう記述だけ読んでいると、遺体への配慮という点ではなんだかなあと違和感しきりなのだが、そうした方途を支えている考え方、広い意味での「思想」がどんなものだったのか、やはり気になってくる……。

新しい書店が!

近場の駅の駅前に新しく書店ができていた(チェーン店らしい)。おー、このご時世に新しい書店というのが、それだけでなにやら感動的(笑)。さほど広くはない店内だけれど、売れ筋中心ながら人文系とかアート系とかの書籍もあって、これまた感激。八木氏の『天使はなぜ堕落するのか』とかが入り口横の新刊コーナーに置かれている。奥の人文書コーナーには、げ、オンフレ本(『教科書』)まであるじゃないの(これは嬉しい)。カンター近くに置かれたコミックはビニールがかかっておらず立ち読み可。このあたりのコンセプトもなかなか。できればこうした路線、この先も維持してほしいところ。人文書などには、ものにもよるだろうけれどなんらかの需要はあるはず。まさか明日からはコーナーなくなってて、エイプリルフールでした、って落ちじゃありませんように(んなわけないだろうけど)。

そんなわけで、とりあえず片山杜秀『クラシック迷宮図書館』(アルテスパブリッシング、2010)ほかを購入。これ、『レコ芸』の書評コーナーを寄せ集めたもの。音楽関連書を毎月一冊ずつ批評していくというものらしいのだけれど、短めの文章ながら独特の味わい。すでにして話芸という感じ。すでに続編も出ていて、上の書店には二つ並んで置かれていた。