【書籍】ヴァレリー 芸術と身体の哲学

「詩は装置である」と言うヴァレリー


 伊藤亜紗『ヴァレリー 芸術と身体の哲学』(講談社学術文庫、2021)を読んでみました。詩人ポール・ヴァレリーが残した膨大なカイエをもとに、その詩論、時間論(持続論)、身体論を読み解くという野心的な一冊です。

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 個人的には第一部の詩論の部分がとても気に入りました。同時代の小説の「描写」を否定するヴァレリーは、小説や詩の作品を、生産者(作者)と消費者(読者)を媒介する装置、つまり読者が作品を通じてなんらかの(心的な?)行動をなすように促すものと考えていたというのですね。読者は自身を投影し、そこから作者の側との共感を熟成させていく、というふうに。

 ヴァレリーがラシーヌを通じて古典主義に傾倒していったというのも、興味深いところです。制約のあるところでこそ(つまり自分の言いたいことが言えないという状況のもとでこそ)、言葉の本質に迫ることができるのだという、とても禁欲的・修練(練習)的な詩作の考え方が、その根底に横たわっているというわけなのですね。