ダンテ像、破壊と創造

新しいダンテ像


 原基晶『ダンテ論——『神曲』と「個人」の出現』(青土社、2021)を読んでみました。既成のダンテ像を打ち崩す、なんとも痛快な論考です。

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 ダンテの出自、当時の政治状況、作中のダンテやベアトリーチェの位置づけ、ダンテとその諸作品の歴史的評価の移り変わり、日本での受容、『新生』『神曲』『帝政論』のそれぞれの再解釈など、内容は網羅的です。取り上げるテーマ1つ1つで、従来の解釈が退けられ、新しい視点が盛り込まれており、またそれをどこか醒めたような筆致が支えている、という感じです。

 個人的には、やはり『帝政論』がらみの部分が一番面白く感じられました。全体的に、ダンテの執筆当時の社会的変化についての、著者の鋭い感性が底流になっている印象です。作品解釈の軸に予型論をもち出してくる、大御所アウエルバッハすらも俎上に乗っているのにはびっくりしました。著者によれば、そうではなく、封建制社会から商業活動中心の都市社会への時代的変化こそが、解釈の軸になるはずだ、というのですね。なかなか見事です。

 ダンテとは直接関係はないのですが、最近文庫化された幻視SF、オラフ・ステープルドン『スター・メイカー』(浜口稔訳、ちくま文庫、2021)をちょうど読んでいるところで、なにやらこれが、ダンテの『新曲』と通底するような気もしていました。「ノリが似てる?」みたいな。『新曲』がなにがしかの作品のモデルのようになっているような部分も、当然あるのかもしれませんね。

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