「文献情報」カテゴリーアーカイブ

長旅ご苦労様

今朝届いた荷物は、なんとまあ注文から1年以上経っていた本たち。クリスティーナ・ヴィアーノ編『アリストテレス・ケミクス』(Christina Viano (ed), “Aristoteles chemicus – Il IV libro dei Meteorologica nella tradizione antica e medievale”, Academica Verlag 2002)ほか一冊。イタリアの古書店に注文して、発送の連絡を受けてからひたすら待ち続け、半年近くたったところで問い合わせメールを出したら、「セカンドコピーを送る」との返事をもらい、さらにひたすら待って、昨年秋ごろに再度問い合わせメール。「確認して、対応する」との返事が来たものの、やはり荷物はとどかず、これは完全にロストしたかもなあ、と思って半ばあきらめていた。それがやっと到着。見ると、書籍を入れた袋の表面には幾十ものテーピング。そして発送日は今年の4月6日になっているでないの。ってことはこれ、宛名違いか何かで日伊間を数回往復していたのかも(???)。いや〜長旅ご苦労様という感じ。そう思うとひとしおですなあ。まだ中身はちゃんと見ていないけれど、アリストテレスの『気象論』第4巻(熱やら物質変成やらを扱った箇所)の後世の注釈などを取り上げた、99年のセミナーの論集で、目次を眺めるだけでも大いに期待できそう(笑)。

ジョイスの中世

これまた速攻購入で速攻読了となったのが宮田恭子『ジョイスと中世文化』(みすず書房、2009)。ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を入り口として、そこに描かれたものの背景に広がる中世世界を訪ねるという一冊。バリバリの学術書かと思いきや、比較的自由な筆致で綴られた好エッセイという感じで、中世についての幅広い概論みたいになっている。研究書として異なる二系列を突き合わせるような場合、どちらを主軸に置いて語るのかのバランスというのは結構難しい気がするのだけれど(以前にもそういうことを言ったけれど)、本書はエッセイ的にまとめることで、かなり自由にジョイスと中世を行き来できるようにしている。これは見事かも。個人的に『フィネガンズ・ウェイク』はペーパーバック版とか持っていたりするのだけれど、実はさっぱり読んでいない(笑)。『ユリシーズ』も挫折したクチなので(苦笑)。そんなわけで、ジョイスが中世にかなりの関心を抱き、作品にこれほどいろいろな要素を取り込んでいるというのも、かなり新鮮だった。やっぱり20世紀前半あたりまでは、スコラ学や中世文化についての教養は今以上に重要だったのだろうなあ、と。

本書が扱うテーマも実に様々。たとえばパドヴァ大学関連(2章)などでピエトロ・ダバノ(アーバノのピエトロ)が何度か言及され、クザーヌスとジョルダーノ・ブルーノを介して伝えられる対立物の「反対の一致」思想をジョイスが受け止めている話などは印象的。アルベルトゥス・マグヌスもパドヴァ大学で学んでいた、なんて話も出てくる。自由学芸がらみ(7章)では、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会のフレスコ画「アクィナスの勝利」の話も出てくる。トマスの下に並ぶ14人の学芸の擬人像(左側の7人は教会の学問、右側の7人は伝統的自由学芸)と、それに関連する歴史上の人物が紹介されているのだけれど、あれれ、この記述ではアリストテレスが二回出てくることになってしまうような……。7学芸への人物配置はシャルトル大聖堂をほぼ踏襲しているとされているけれど、そちら自体の人物の特定も決定的なものではないという。なるほどね。ちょっと確認してみようか。

音楽に関する章(8章)も興味深い。聖セシリアが音楽の守護聖人とされるのは14世紀以降で、実際にフレスコ画などで聖セシリアが楽器と関連づけられるのも15世紀以降のようだと著者は述べている。そもそも楽器を演奏する天使の絵が増えるのも13世紀以降で、著者はそこに神学思想のなんらかの変化を見てとっている。トマスが音楽の自律的な価値をいくぶん認め、楽器の使用については否定的ながら、なんらかの戸惑いを示しているとの指摘もある。このあたりも、ぜひもっと詳しく見たいところ。

Brepolsの近刊情報から

少し前に届いていたBrepolsの近刊案内。相変わらず、いろいろ面白そうな新刊が並んでいる。とりあえず最近の関心に合わせて個人的に気になるものを抜いておくと……。

  • Martin Roch “L’intelligence d’un sens. Odeurs miraculeuses et odorat dans l’Occident du haut Moyen Âge (Ve- VIIIe siècles)”
    「匂い」の歴史なんてとても魅力的なテーマ。聖人伝などに見られる「聖なる香り」を、ほかの文献史料や考古学的成果と突き合わせて検証するものらしい。6月刊行予定。
  • D. Renevey & C. Whitehed (ed.) “Lost in Translation? Actes du colloque de Lausanne 17-21 juillet 2007”
    中世の翻訳をテーマにしたシンポジウムの記録論集。これはぜひ入手したいところ。6月刊
  • C. Kleinhenz & K. Busby (ed.) “Medieval Multilingualism. The Francophone World and its Neighbors”
    フランス、イタリア、英国、低地帯(ベルギー、オランダ、ルクセンブルクなど)の中世の多言語状況についての一冊らしい。とくにフランス語の果たした役割が中心とか。ちょっと期待。5月刊
  • Johannes Philoponos, “De aeternitate mundi – Über die Ewigkeit der Welt” (ed. C. Scholten)
    ピロポノスの「世界の永遠について」希独対訳本。これはぜひ見たい。4月刊
  • B. Bakhouche & S. Luciani (ed), “Lactance: De orificio mundi. Édition et traduction commentée”
    ラクタンティウス(3世紀の教父)による「世界の始まり」の校注・仏訳。これも見たいところだ。5月刊
  • Y.T. Langermann (ed), “Avicenna and his Legacy. A Golden Age of Science and Philosophy”
    アヴィセンナとその後のアラブ圏の思想家についての17編の論文を収録した論文集とか。6月刊
  • B. Decharneux & S. Inowlocki (ed), “Philon d’Alexandrie. Un penseur à l’intersection des cultures gréco-romaine, orientale, juive et chrétienne”
    アレクサンドリアのフィロンについての、こちらも論集。5月刊。

アーカイブ・サイト

最近個人的にちょっとハマっているテキスト・アーカイブ・サイトがDocumenta Catholica Omnia。お恥ずかしいことに最近まで知らなかったのだけれど、ここは古代末期から中世・ルネサンスまでの哲学・神学のテキスト・アーカイブ。発展中という感じだけれど、とりあえず特に13世紀くらいまでは網羅的で、ものすごく充実している。たとえばこのblogでもメルマガでも言及したセドゥリウス・スコトゥスの注解書とか、ヨハネス・スコトゥス・エリウゲナの『自然の区分について』とか、ペトルス・ロンバルドゥスの『命題集』とかいろいろ手に入る。トマス・アクィナスなどもずらずら並んでいて壮観。ラテン語はもとより、ギリシア語文献もギリシア教父のほかいろいろあるし、各国語訳もいろいろある。ちなみに目次というか索引というかはhttp://www.documentacatholicaomnia.eu/a_1003_Bibliothecae_Partes_seu_’Site_Map’.html。テキストはdocないしpdfでアーカイブしていて、大変にありがたい。多謝。これからの一層の拡充も楽しみ。

新刊情報(ウィッシュリスト……)

景気低迷にもかかわらず、中世関連の新刊も春先に向けて多少華やぐ模様だ。というわけで、また久々にウィッシュリストみたくまとめておこうか。

まずは岩波の「ヨーロッパの中世」シリーズの続刊。
河原温『都市の創造力』
関哲行『旅する人びと』

中世関連のイギリス関係。最初のは入門というよりは研究紹介書らしい一冊。次のはフェネガンズ・ウエイクと中世文化の関係を検討するというものらしい。これは面白そうかも。さらにその次は文化論的な議論なのかしら。いずれにしてもイギリス中世ものが集中しているなあ。
『中世イギリス文学入門』(雄松堂出版)
宮田恭子『ジョイスと中世文化』(みすず書房)
『中世主義を超えて – イギリス中世の発明と受容』(慶応義塾大学出版会)

音楽関係では、皆川氏の名著が文庫化されたほか、ゴリアールものの俗謡集が。
瀬谷幸男『放浪学僧の歌 – 中世ラテン俗謡集』(南雲堂フェニックス)
皆川達夫『中世・ルネサンスの音楽』(講談社学術文庫)

ヨーロッパの辺境的部分もふくめて地域的な広がりで捉えるという二冊(って、そりゃずいぶん大雑把な括りだが(苦笑))。
山中由里子『アレクサンドロス変相 – 古代から中世イスラームへ』(名古屋大学出版会)
富田矩正『バルト海の中世 – ドイツ東方植民と環バルト海世界』(板倉書房)

マクシモス研究というのは珍しい。
谷隆一郎『人間と宇宙的神化 – 証聖者マクシモスにおける自然・本性のダイナミズムをめぐって』(知泉書館)

薬草ものは、やはり魔術関係の言及もあるのかしら。
M.B. フリーマン『西洋中世ハーブ事典』(遠山茂樹訳、八坂書房)

次はまだ出ていないものだけれど、期待大。
バルトルシャイテス『異形のロマネスク』(馬杉宗夫訳、講談社)