ヒンターライトナー

リュート奏者ルッツ・キルヒホフの新譜はフェルディナンド・イグナス・ヒンターライトナーという17世紀の作曲家のリュートのための協奏曲『音楽の奇跡』(Musical Miracles -F.I.Hinterleitner / Lutz Kirchhof(lute)icon)。協奏曲というわけで、ヴィオラ・ダ・ガンバとパルドゥシュ・ド・ヴィオールが参加している。でも、リュートのための協奏曲というだけあって、主役はリュート。だから通奏低音に回るのではなく、ちゃんとメロディにも絡む絡む……。とても珍しい(笑)。また、全体的に舞曲っぽさが前面に出ているのも個人的に好ましい(なんだか本当に踊れそうな感じ)。このヒンターライトナーという人物、詳細は不明。ライナーには、リュート協奏曲を1699年にウィーンで出版したとあり、フランスのリュート曲のリズミカルな様式と(ジャズっぽいとか書いている)イタリア式の旋律の動きとを結合させている、みたいに書いている(キルヒホフが)。でも全体的にはとても好印象でノレる。ぜひタブラチュアを見てみたい……。


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断章17

(Lamberz 28; Creuzer & Moser 29)

Τὸ ἀσώματον ἂν ἐν σώματι κατασχεθῇ, οὐ συγκλεισθῆναι δέει ὡς ἐν ζωγρείῳ θηρίον· συγκλεῖσαι γὰρ αὐτὸ οὐδὲν οὕτω δύναται καὶ περιλαβεῖν σῶμα οὐδ᾿ ὡς ἀσκὸς ὑγρὸν τι ἕλκειν ἢ πνεῦμα, ἀλλ᾿ αὐτὸ δεῖ ὑποστῆσαι δυνάμεις ῥεπούσας ἀπὸ τῆς πρὸς αὐτὸ ἑνώσεως εἰς τὸ ἔξω, αἷς δὴ κατιὸν συμπλέκεται τῷ σώματι· δι᾿ ἐκτάσεως οὖν ἀρρήτου τῆς ἑαυτοῦ ἡ εἰς σῶμα σύνερξις. διὸ οὐδ᾿ ἄλλο αὐτὸ καταδεῖ, ἀλλ᾿ αὐτὸ ἑαυτό, οὐδὲ λύει τοίνυν θραυσθὲν τὸ σῶμα καὶ φθαρέν, ἀλλ᾿ αὐτὸ ἑαυτὸ στραφὲν ἐκ τῆς προσπαθείας.

非物体的なものが物体的なものに含まれている場合でも、檻の中の動物のように閉じこめられなくてはならないわけではない。というのも、それを閉じこめたり取り巻いたりすることは物体にはできないし、革袋がなんらかの液体や空気を入れるようにもできないからだ。そうではなく、非物体的なものは、それ(非物体的なもの)との結合によって外在化へと向かう力を実体化しなくてはならないのである。かくしてそれは下り、物体と一体になる。名状しがたい自身の拡張によって、物体に結合するのである。ゆえに、それは自身以外になにものも必要とせず、離れるときも、物体の破損や消滅によってではなく、非物体それ自身の熱意が逸れるがためなのである。

「カミング・スーン」ブックス

昨日の話に関連して、ケンブリッジ大学出版から秋に『ケンブリッジ中世哲学史』という2巻本が予定されている。amazon.comではハードカバー版が250ドル(“The Cambridge History of Medieval Philosophy 2 V Box Set (Hardcover)”)。これはちょっと楽しみかも。10月31日刊行予定となっているけれど、こういうのは遅れそうだからなあ。ま、気長に待つとしよう(笑)。

ついでにamazon.comの中世思想関係の新刊予定を見てみたら、なにやら以前に比べて新刊の先取り情報が少なくなっている。刊行予定がそれだけ減ったということかしら?このところの経済状況の悪化のせい?うーん、そういう影響はジワジワくるからなあ。

ま、気を取り直して眺めると、お〜、8月にガンのヘンリクスのものとされる(?)『シンカテゴレーマタ』(“Syncategoremata: Henrico De Ganavo Adscripta”)が刊行予定に。ブルージュの州立図書館所蔵の写本の、おそらくは校注版でしょうね。延び延びになっているアヴェロエスの『霊魂論大注解』英訳本(“Long Commentary on the De Anima of Aristotle”)は、今度は6月24日の予定となっているが、これはどうなるのかしら(笑)。『ケンブリッジ必携:ボエティウス』(“The Cambridge Companion to Boethius”)なんてのも6月の予定。いままでそういえばなかったんだっけ?あとは食指が動くかどうか微妙なところとして、ドゥンス・スコトゥスもの(“Duns Scotus and the Problem of Universals”)や、アヴェロエスもの(“Averroes’ Physics: A Turning Point in Medieval Natural Philosophy”)、オッカムもの(“Ockham Explained”とか。

ピロポノス追記(&ブック検索)

13世紀ごろに出回っていたピロポノスのラテン語訳は、アリストテレスの『霊魂論』第三巻への注解だった(苦笑)。定番の参照本、ジルソンの『中世の哲学』(E. Gilson, “La philosophie au Moyen Age”, Payot & Rivages 1999)にちゃんと言及されていた。メルベケのギヨームによる1268年のラテン語訳。トマス・アクィナスが目にした可能性も当然あるという。ボナヴェントゥラが参照したというのもこれかしら?その点については言及はないようだけれど……。また、『自然学』注解のラテン語訳の存在もやはり不明。うーん、やはりかなり後になってからなのか、それとも13世紀ごろの訳書は散逸してしまっているだけなのか……?

ちなみにこれも定番の『ケンブリッジ中世後期哲学史』(メルベケの訳本への言及はそちらでも確認可)などは、今やグーグルのブック検索で一部公開になっている(“The Cambridge History of Later Medieval Philosophy”)。ブック検索の基本は絶版本という話だったけれど、あれれ、これはどうなっているのかしら?例の強引とされた和解のせいで閲覧可能になっているわけ?確かに全ページではないけれど、うーん……。ブック検索、便利だから使わない手はないし、学術書などの公開は原則としてもっと幅広く行われてほしいと思うのはやまやまだけれど、なにかこう今ひとつすっきりしないのは、こういう市販されている本の扱いがちょっと怪しいからか……。ちょうど日本の中小の出版社がブック検索の和解案を蹴ったニュースが出ていたけれど(Internet Watchとか)、やはりそのあたりが問題になっているようだ。もっとも、少部数の学術書などは本来、別のスキームが必要に思えたりもする。学術書や論文などは、学術的価値などから考えて部分的公開でいいから迅速になされたほうがよい気もする。もちろん、権利者のなんらかの同意は必要だろうけれど。いずれにしても十把一絡げで対応しようというのはそろそろ限界なんではないかしら、と。

ヘルマイオン

古典ギリシア語の作文強化に向けて(苦笑)、この半年ほど作文問題を中心に文法を一通り駆け足で見直している。そのテキストにしているのがこれ。『ヘルマイオン』(J. V. Vernhes, “ἕρμαιον – initiation au grec ancien”, Ophrys, 1994-2003)。フランスで出ている、おそらく最も練習問題の多い古典ギリシア語入門書。練習問題の多さで、これは実に優れもの。これほどガツンと手応えのある学習書、昨今の日本国内には見あたらない(?)。35課あるのだけれど、各課の訳読問題は平均でかるく100題を超える。さらに作文が30題から多いときには60〜70題。訳読問題は課が進むとそれなりに複雑化していくけれど、作文問題は大体一定(笑)。ま、これだけ浴びれば、弱点もよくわかるというもの(個人的には、アクセント記号の位置を結構間違えるのと、不規則動詞の活用……。ま、こんなのはひたすら馴れでしょうけどね)。語学は体育だと久々に思う。これ、いきなり初学者が取り組むというよりも復習用に最適。本文はフランス語だけれど、どこかの出版社が邦訳とか出してほしいところだよね。どこかやりませんかねえ……こんな出版情勢ではちょっと難しいだろうけど。本来は教室で使うことを前提としているみらいだけれど、独習も可。独学用には別冊の「部分解答集」(“Corrigés partiels”)もお忘れなく。とりあえず作文問題と各課の「本格テキスト」の訳の模範解答が載っている(訳読の解答はない)。多少ミスプリとかヌケとかあるのがフランスっぽくってご愛敬(笑)。