久々にブログ「ヘルモゲネスを探して」をまとめ読み。「針先で踊る天使たち」というシリーズが続いていて興味深い。ちょうど『中世の哲学的問いにおける天使』(“Angels in Medieval Philosophical Inquiry”, ed. Isabel Iribarren & Martin Lenz, Ashgate, 2008)という論集を読み始めたところで、これに、以前天使論の言語研究とかを出していたティツィアーナ・スアレス=ナニがスコトゥスがらみでの分離実体の場所論(位置論)を寄せていて、その前段部分が天使の場所論についての簡潔な整理になっている。
画域的(circumscriptive)場所と限定的(definitive)場所という概念を導入したのはペトルス・ロンバルドゥスなのだそうで、とりわけ非物体的被造物について言われるこの後者の概念の理解をめぐって、後世の議論が巻き起こるという。トマス・アクィナスは天使の場所のと関係は、その天使の知性的・意志的な作用から生じるとし(ゆえに天使は画域的にではななく、限定的に場所に関係する)「最小限」の場所性を唱える。ローマのジル(エギディウス・ロマヌス)はその説を踏襲し、天使が及ぼす作用(行為)は必ず場所に結びついており、よって天使も場所的に限定されるというふうに敷衍する。後のペトルス・ヨハネス・オリヴィになると、天使は行為のほかに、共存在や運動においても場所に関係するとし、作用のみに限定されない、場所との本質的な関係があるとする。同世代のアクアスパルタのマテウスは、作用による場所との関係説を斥け、被造物にはそもそも空間的な限定が内在していると論じるようになる。メディアヴィラのリカルドゥスも同様。こうした流れの中で、ドゥンス・スコトゥスの独特の場所論が登場し(場所を性質・本質とは見ずに、むしろ数量と形状として考える)、天使は必ずしも場所(自然の場所)では限定されないというテーゼが展開するのだという……。うーむ、スコトゥスの場所論・天使論はちょっと興味のあるところなので、近々メルマガのほうで取り上げようかとも思案中。
どの神学的論点でも,まず Peter Lombard の『命題集』があって,それに対してトマスがあって,そしてスコトゥス,オッカムの批判があってという展開なのですよね.天使論だけではなく,他の論点でもこの種の系譜学が教科書的に整理されていると便利ですね.
それはぜひやっていただきたいです(笑)。『命題集』はとても重要そうなのに、あまり研究が出ていない印象を受けます(こちらが見落としているだけかもしれませんが……)。そのあたり、なんだか不思議な気がします。