年二回刊行の『理想』最新号(No.683)は特集が「中世哲学」。聞き覚えのある執筆陣が並ぶ。内容も、ギリシア教父関連、アウグスティスヌ、トマス、エックハルト、クザーヌスなどなど、ほかの某学会誌に並ぶようなテーマというかタイトルが多いのだが、そんな中、個人的には三村太郎氏の論文(「中世イスラーム世界における『ギリシア哲学者』の存在意義とは」)がとりわけ目を惹く。アル・ファラービーがアリストテレス主義者だという話はよく聞くけれども、ではいかにしてファラービーはアリストテレス主義者になりえたのか、という問題設定。ここから、大きな歴史的動きが浮かび上がる。アラビア語でのキリスト教護教文献の登場とともにイスラム教との間に宗教の正当性をめぐる議論の場ができ(アッバス朝が率先して設けた)、そこにギリシア語話者のキリスト教系の医者たちが参加する。彼らは医学知識でもってパトロンに仕えていたものの、様々な助言をもする存在で、彼らがアリストテレス哲学(とくにオルガノン)を浸透させる役割を果たした、というわけだ。なるほどこれも、最近の研究動向というか、アラブ世界のアリストテレスの再発見にギリシア系の人々が一役買っていたという話に連なる研究成果。うーむ、やはり中世ギリシア圏は面白そう。