福本ワールド

『カイジ』の実写版映画公開に合わせてということなのだろうけれど、雑誌『ユリイカ』10月号は特集が福本伸行。福本ワールドは絵柄も話もどこか異形。その異形ぶりは同誌に再録された初期短編(絵柄はずいぶん違うが)にもほの見える。主人公の高校生はなんと朝から酒飲んで路上で寝ているという、ラブコメにはまるで似つかわしくないキャラクター。なにかこの、すさみ方がすでにして異形だ。で、『ユリイカ』誌だけれど、特集の対象がそういう異形世界なのだから、批評・論考も異形のものが期待される。個人的に目を惹いたのは、タキトゥスによる賭博についての一節から始まる、前田塁氏の論考。ギャンブル(麻雀など)を扱う小説やマンガが、結局は和了形から遡行して展開が逆算される以上、作品はいわば賭博の偶然性をどう消去していくかというプロセスに始終せざるをえないことを看破している。賭博の本質は「描かれない外部」としてあるということか。論考の末尾を閉じるのは、今度は『ゲルマーニア』の一節という、なかなか手の込んだどこか「異形の」論考。