驚異の幼児向け哲学ワークショップ

昨日だけれど、ご厚意により、フランス映画『Ce n’est qu’un début』(Jean-Pierre Pozzi & Pierre Barougier監督作品、2010)(フランスの公式サイトはこちら(ww.cenestquundebut-lefilm.com))の試写を拝見させていただいた。昨年秋にフランスで一般公開されたもの。なんと幼稚園で試験的に開かれている哲学ワークショップ(!)を2年間追ったドキュメンタリー。これ、France2の定時ニュースでも取り上げていたっけ。恵まれない層が多い郊外地区に設置された優先教育特区(ZEP)にあるジャック・プレヴェール校幼稚園。そこに通う四歳の子どもたちに、自分の頭で考える習慣を付けさせるべく、試験的なワークショップが始まる……。最初、「今はできないけれど、将来できるようになることってどんなこと?」との先生の問いかけに、まったく答えを返せない子どもたち。ところが1年、2年と経つうちに、彼ら彼女らはしっかり意見を言えて、相手への反論を返せるようになっていく。この成長ぶりが実に驚異的だ。愛とか死とかいったテーマすら話題にすることができるようになるのだから。それぞれの子の個性が早くも芽生えていく様も興味深い。

一方で、郊外地区の抱える問題、ひいてはフランス社会、近代社会の様々な問題も、すでにして彼ら彼女らの心のうちに影を落としている様も散見される。たとえば人種的偏見なども、おそらくはまわりの大人たちの言動を通じてだろうけれど、すでにして取り込まれていたりする。テレビなどで報道される陰惨な殺人事件などの断片的なイメージも、しっかりと心に刻まれていく。クリシェの恐ろしさ、か。優先教育特区が置かれた郊外地区は、いろいろな社会問題の縮図のような場所といわれるけれど、これらの子どもたちが果たしてこれから先、かくして根付いたかもしれない(?)省察の習慣によって、そういう諸問題にきちんと向き合い、その都度乗り越えていけるのかどうか、とても気になるところだ(実際、こうした幼児の哲学ワークショップの是非も、いろいろ議論されているらしいが……)。

もちろん、あのサンデルの授業もそうだけれど、映画そのものには描かれない周囲の努力もいろいろなされているらしい。この点を見逃してしまってはいけないだろう。親たちに対しても、子どもと話ができるようにとワークショップが開かれているというし、教師の側もかなり周到な準備をしているらしい。いずれにしてもこれはとても実験的・野心的な試みではある。ちなみに日本での配給元はファントム・フィルムで、公開は夏ごろの予定とか(仮題で『ちいさな哲学者たち』)。まだ試写も行われるらしいので、興味ある向きは連絡してみるとよいかも。あと、個人的には要所要所で挿入される曲がなんとも印象的で耳に残る。どうやらこれ、ウードの曲らしい。チュニジアのミュージシャン、アヌアル・ブラヒム(Anouar Brahem)によるもの。アルバム「Astrakan Cafe」から。

↓トレーラーを掲げておこう。