個人的メモ。イェンス・ホイルップ「中世ヨーロッパにおける数学教育の歴史」(Jens Høyrup, History of Mathematics Education in the European Middle Ages, preprint for Handbook on History of Mathematics Education, ed. Gert Schubring & Alexander Karp, 2012)という一文を読んでいて、ゲルベルトゥス(オーリヤックのジェルベール:のちの教皇シルヴェストル2世)についての記述が個人的にはとても気になった。カロリンガルネサンスと12世紀ルネサンスを結ぶミッシングリンクとされるゲルベルトゥスは、天球儀やらアストラーベやら、さらには独自のモノコルド(一弦琴)やら、いろいろな学術的道具を考案したとされるのだけれど、アバクス(いわゆる算盤)もそうで、一般にローマ時代の後に使われなくなっていたアバクス(いわゆる算盤)を西欧に再導入したとされていたりする。それが具体的にどんな形状のものだったか、俄然興味が湧いてくる(笑)。ホイルップによると、12世紀前半まで、ボエティウスの『算術論』と土地測量(エウクレイデスの断章がベース)の伝統が算術や幾何の教育の基礎で、主にロタリンギア(ロレーヌなど)の聖堂付属学校がその舞台となったという。で、そこで重要な貢献を果たしたのが、新しい種類のアバクス(改良版?)だったという。インド=アラビア数字の記数法を用いたもので、これがゲルベルトゥスの考案によるものだとされ、10世紀末にはランス(フランス北部)の聖堂付属学校でゲルベルトゥス本人が教育に用いていたらしいとのことだ。
さらにゲルベルトゥスが用いていた算術の教材として、リトモマキア(rithmomachia)なるボードゲームもあったという(ゲルベルトゥスの考案ではないかと書かれているけれど、下に挙げる他の文献ではどうやら違うようだ)。これもどんなものかが気になる。どうやら数字将棋のようなものらしいのだけれど……と思っていたら、結構ネットにはリファレンスがあって参考になる。邦語では、ブログ「ヘルモゲネスを探して」に概要がまとめられているし、三浦伸夫「リトモマキア:中世西欧の数学ゲーム」(『国際文化学研究』17、2002)は総括的なまとめとして興味深い。同様にオンラインで公開されているまとめとしては、ピーター・メッベン「リトモマキア:賢者のゲーム、中世の数字バトル」(Peter Mebben, Rithmomachia, the Philosophers’ Game, A Mediaeval Battle of Numbers)なんてのもある。リトモマキアは早くから教育目的で使われていたものの、本格的にゲームとして人気が出るのは印刷本時代以降で、とくに17世紀に人気が高まったのだとか。いいっすね、これ。ちょっと遊んでみたいかも。