中世にまで及ぶティマイオス注解。で、その流れを方向づけているのはやはりカルキディウス(四世紀)によるティマイオス注解らしい。論集『ティマイオス−−ギリシア、アラブ、ラテン世界の注解』の末尾を飾るイレーネ・カイアッツォ「元素の形状と性質:『ティマイオス』の中世的読解」という論考は、『ティマイオス』に出てくる四元素論にのみ特化した形で、一二世紀までの注解の事例を追っていくというものなのだけれど、その出発点に位置づけられているのはカルキディウスだ(ちなみにカルキディウスのティマイオス注解は2011年にベアトリス・バクーシュによる校注版(リュック・ブリソンが翻訳に協力)が二巻本で出ている(Béatrice Bakhouche(éd), Commentaire au Timée de Platon-2 Volumes, Vrin, 2011))。
これまた少し前からボチボチっと読んでいるのが、マリニウスの『アストロノミカ』(Loeb版:Manilius – Astronomica, 1977-1997)。韻文で書かれた占星術についての詩作品なのだけれど、この著者マニリウスについては詳しいことがまるでわかっていないのだそうだ。ただこの詩作品が紀元一世紀の最初の20年間あたりで書かれたことは、内容のリファレンス(紀元9年のトイトブルク森の戦いなど)からほぼ確からしいという。とりあえず第一巻を読了したところなのだけれど、最初の宇宙開闢論(ストア派の四元素論)に続いて、天体の配置の話がずらずらっと続く印象だ。このあたり、例によってあまりちゃんと理解していないが(苦笑)、まあとりあえず先に進むことにしようと思う。で、このマニリウスに関連して、デーヴィッド・レイ「古代ローマの占星術:詩・予言・権力」(David Wray, Astrology in Ancient Rome: Poetry, Prophecy and Power, 2002, Univ. of Chicago)というWeb公開の論考を読んでみたのだけれど、それによると、最初の校注版を編纂したハウスマンという人物が、マニリウスの詩をもとに占星術のチャートが描けるわけではないと言っているのだそうで、それはウェルギリウスの『農耕詩』が現実の農家のマニュアルにならないのと一緒だと著者は記している。でも、興味深い指摘として、『アストロノミア』は『農耕詩』をモデルにしているのはほぼ間違いないという。ちなみにハウスマンの校注版はネットからダウンロードできる(→書誌情報など含めたページ)。