『推測について』

Les Conjectures先日のフラッシュ『ニコラウス・クザーヌスとその時代』によれば、クザーヌスの三番目の著書となる『推測について』(執筆年代は1442年から43年頃とされているけれど、問題含みではあるようだ)は、どうやらクザーヌス思想の転換点(前期と後期の)に位置する重要な一冊らしい。とはいえ、意外にスルーされることも多いような印象を受ける(あくまで印象だが)。というわけで、そうした個人的な気がかりから、『推測について』の仏訳本(Nicolas de Cues : Les Conjectures, trad. Jocelyne Sfez, Beauchesne, 2011)を読み始めた。まずは訳者ジョスリン・スフェズによる解説序文。上のフラッシュ本でも、それ以前の『知ある無知』での、人間は確実なことを知ることが適わないという無力さから、『推測について』ではむしろ強調点が「あらゆることへの到達可能性」に移っているとされている。スフェズの解説でも、人間の認識するあらゆることが推測にすぎないという「汎推測論」が、そのこと自体のうちに孕んでいる豊かさを開示するという逆説として取り上げられる。否定神学から肯定神学への反転?人間は神の似姿あである限りにおいて、神が創造した被造物に匹敵する豊穣さを、概念として脳裏に抱くことができるとされるのだ、と。確かに本文のさわりをみても、「汎推測」論とそれを支える合致(合一?)などの基本原理も含めて、そうした肯定感はひしひしと伝わってくる。まだ冒頭部分だけなので、今後特記すべきことがあればメモしていこう。また後世への影響なども気になるところだけれど、フラッシュは一例としてピコ・デラ・ミランドラによる人間賛美を挙げている。