ゾシモス「器具と炉について」第一書 1

さて、少し前に予告したように、ゾシモスのテキストを少しずつ訳出していくことにしよう。底本は例のLes Belles Lettres版(Les Alchimistes Grecs (Collection Des Universités de France, Serie Grecque))。

同じくゾシモスによる
器具と炉について
真正の覚書

第一書 字母オメガについて
1. 字母オメガ「ω」は丸く、二つの部分から成り、身体的言語で言う第七のクロノスの領域に結びついている。というのも、非身体的言語では、記述できないほかの何かを言うのであり、それは隠れし者ニコテオスのみぞ知るところである。身体的言語を司る原理が述べるところによれば、身体的言語でいう「神々の海(オケアノス)」は、あらゆる生成と種子のことであると(詩人は?)言う。偉大かつ見事な字母オメガと称されるものは、神の水(=硫黄水?)を扱う器具について、また、機械的なものや簡素なものなどあらゆる種類の炉について、つまり簡潔に言うならあらゆるものについての論考を含み持つ。

それにしてもこれは何を言っているのかなかなか解せない。たったこれだけの最初のパッセージで、疑問山積み。うーん、先が思いやられる……ってそれはいつものことだけれど(苦笑)。

Les Alchimistes Grecs (Collection Des Universites De France Serie Grecque)・上の底本の註釈によると、まず「第七のクロノスの領域」とは、七つの惑星が支配するそれぞれの天球の領域ということらしい。で、ギリシア語の七つの母音が七つのそれぞれの領域に結びついているとされ、オメガは七番目なので、七つめの球(順に地球から離れる)に結びついているのだという。
・ニコテオスはグノーシス主義者。ポルフュリオスの『プロティノス伝』に言及あり。身体的・非身体的言語というのは何を指すのだろう?人間の言葉と、たとえば天使の言葉のようなものとか?いずれにしてもニコテオスは一種の「見えてしまう人」、つまり預言者・見者であり、その「別言語」(啓示の?)を理解できた、ということらしい。「身体的言語を司る原理(μοναρχικαὶ τῆς ἔνσωμου φράσεως)」は何をいわんとしているのか不明。これまた註によると、科学史家フェスチュジエールですらこのあたりはお手上げを宣言しているらしい。「(詩人は)」と括弧つきで示したのは、ここの動詞(φησί)の主語がよくわからず、註釈において、これはニコテオスの引用で、ここでホメロスに言及しているという説があるからなのだが……?
・「オケアノス(Ὠκεανός)」が出てくるのは、それがオメガで始まるからではないかとのこと。オメガ繋がりで、「オメガ」=「第七の天球(クロノスの天球)」=「オケアノス」=「生成・種子」といった連想が連なっている……。
・最後の一文は、註釈では文意が多義にわたっており、一つには「第七書が器具と炉についての論文だ」ということも示唆されているのだとか。実際ゾシモスのこの覚書の第七書は、「神の水」についても、硫黄を指すという話があるかと思えば、水銀もしくは蒸留でできる液体を指す可能性もあるようだ。器具とは、ほぼ間違いなく蒸留器のことだとされている。