異化作用のために

仏教者が読む 古典ギリシアの文学と神話: 松田紹典論集タイトルに惹かれて仏教者が読む 古典ギリシアの文学と神話: 松田紹典論集』(村上真完・阿部秀男編、国書刊行会、2017)を読み始めた。まだざっと第一部。収録論文は70年代のものがメイン。該博な知識が縦横に駆使されて、ある種の混成的な論考がアウトプットされる。それはどこか古き良き時代を想わせるものだ。たとえばギリシアにおける二分割法の問題についてまとめられた第二論文。認識論・範疇論的な二分割的思考の問題を扱いながら(その起源はピュタゴラス派にまで遡る)、話は哲学におけるそうした思考の痕跡にとどまらず、ギリシア神話の方、あるいはまたレトリックの領域にすらも分け入っていく。二分割法の問題は第三論文でも取り上げられ、いかにそれが古代ギリシアの神話を規定しているかが論じられたりする。さらにインドや日本などにおける仏教思想との比較などが持ち出される。それもそのはずで、著者は禅者であり、また古典ギリシア学者でもあるといい、ある意味そうした別筋のもの同士を突き合わせることによる一種の「異化作用」のようなものが、おそらくはその大きな味わい・特色ということになるのだろう。そのあたりをどう受け止めるかで、読み手を選ぶ本だと言うこともできそう。私個人はまだ少し修行が足りないのかな、という感じ(苦笑)。精進しよう。ちなみに第二部(むしろこちらがメインのようなのだが)は、アリストパネスの喜劇『蛙』から古代ギリシアの死生観を探るという括りで、また興味深い論考が11編も並んでいる。