【書籍】失敗の本質

今に通じる組織論


 ドラマ出演者同士の結婚で再注目のキーワード「逃げるははじだが役に立つ」。もとはハンガリーのことわざなのだとか。でもこれ、五輪についても適用できそうで、なにやらとてもタイムリーな感じがします。

 コロナ禍での五輪開催はときにインパール作戦などにも喩えられたりしていますが、その関連もあってか、このところ再注目されているらしいのが、『失敗の本質——日本軍の組織論的研究』(戸部良一ほか著、ダイヤモンド社、1984)という一冊。2013年に電子化されて、ロングセラーになっているみたいですね。というわけで、読んでみました。

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 これもとても面白いですね。当時の日本軍の組織論なのですが、まさに今に通じる問題があったことが指摘されています。組織としてクリティカルな判断を下すさいに、合理性よりも人情論に流されてしまうことや、不測の事態にそなえたコンティンジェンシープラン(いわゆるプランBですね)を端から検討しないこと、中止・撤退論をタブー化してしまうこと、科学的思考や情報を過小評価してしまうこと、長期的な展望をもたず、短期志向の戦略に惑溺してしまうことなどなど。

 環境への適応がいちどうまくいくと、その成功体験が幅をきかせてしまい、さらなる変化への適応ができなくなってしまうなどの組織の問題点も指摘されています。これは今の日本型組織にも綿々と無批判に受け継がれていることだといわざるをえません。政党や行政機関だけでなく、企業も同様ですね。そうした固着化した組織の風通しを良くするためにも、中止・撤退を多少無理筋であろうとも議論することは、意義があるように思われます。中止・撤退することも、別様の「成功体験」として学ぶべきかも。