久々にTLG(Thesaurus Linguae Graecae)を見たら、サイトのデザインが変わり、今風になっていた。リアルタイムアクセスのウィジェットまで付いている……。ギリシア語文献の最大のデータベースは、今なお拡充が続いているようで、相変わらず素晴らしい。いつの間にか、無料アクセス版の著者リストも大幅に拡充されている(前にはなかったプラトンやアリストテレスも入ったし、なんともまあ、ニュッサのグレゴリオスや、ナジアンゾスのグレゴリオス、ヨハネス・クリソストモス、ダマスクスのヨアンネスなども入っている!)。
本格的な寓意的解釈の嚆矢とも言われるポルピュリオスの『ニンフの洞窟』。これの希伊対訳本(“L’antro delle Ninfe”, a cura di Laura Simonini, Adelphi Edizioni, 1986)を、積ん読解除で読み始める。テキスト自体はそれほど長いものではない。まだ3分の1くらいだけれど、すでにしてなかなか面白い。ホメロスの『オデュッセイア』に出てくる一節をめぐり、洞窟やニンフの寓意、そこに古来より込められた多義的な意味をめぐる話が展開していく。ポルピュリオスの、これはコスモロジー系のテキストということになるのかしら。いずれにしても、洞窟はまずもって人間と神を繋ぐものであり、ヒューレー(第一質料でしょうね)の寓意であったり、質料から生成するコスモスの寓意であったりするという。その際の理屈が、洞窟は「自発的に形成される(αὐτοφυής)」からというのだけれど、考えようによってはこれはとても興味深いところ。原初的な形成(形相との混成?)がまずもって穿たれた「穴」として生じるというところに、ある種の形而上学的な可能性が感じられる(笑)。穴の形而上学というと分析哲学系の話題になってしまうけれど、「自発的」という部分も含めて「穿ち」の形而上学ということを考えることもできたりするんじゃないかしら、なんてね(笑)。とりあえずゆっくりとテキストの先に進むことにしよう。
余談2:マルグリット・ド・ナヴァールの『牢獄』に、「神とは無限の円である。その中心はいたるところにあり、円周はどこにもない」という定義が出てくるそうで、なにやらクザーヌスを彷彿とさせるこの一節、出典は『24人の哲学者の書』という12世紀の偽ヘルメス文書だという注があるのだけれど、なんと、ちょうどフランスのJ.Vrin社から、羅仏対訳本(“Le livre des vingt-quatre philosophes – Résurgence d’un texte du IVe siècle”)が出たらしい。しかもこれ、マリウス・ヴィクトリヌスの先行テキストを再浮上させたテキストだという新知見が盛り込まれているらしい。こりゃ面白そうだ!