ピカトリクス

確か少し前まで閉じていた(と思う)adam takahashi’s blogが再開されていて、16日付けでとても興味深いことが記されている。アルベルトゥス・マグヌスが占星術や錬金術に向かったそもそもの要因は、アヴェロエスによるアリストテレスの自然学系の註解書(『生成消滅論』『気象論』)に不満だったからでは、というもの(!)。これは中世の異教的要素の受容という大きな問題も孕んでいるわけで、とても重要な点という気がする。是非とも論証していただきたいところ。

異教的要素の受容という点には、このところ個人的にも関心が高まっている。で、そんなわけで中世の占星術的魔術書といわれる『ピカトリクス』の仏訳本(“Picatrix – Un traité de magie médiéval”, trad. B. Bakhouche et al., Brepolis, 2003)を読もうと思っているところ。まずは訳者らによる序文にざっと眼を通すが、すでにして興味をそそられる。『ピカトリクス』はむしろルネサンス期にもてはやされた書だけれど、ラテン語版が成立したのは1256年とか。逸名著者によるアラビア語のテキスト(Ghâyat Al-Hakîm:『賢者の目標』)がスペイン語に訳されて、そこからラテン語が作られたのだという。いずれの訳者も不明で、二度の翻訳を挟んでいるせいか、もとのアラビア語版とはかなりの違いが出ているらしい(仏訳本はラテン語ベース)。すでにして翻訳の問題が絡んでくるわけか。内容的には魔術の理論面を扱うものらしく、術を行うものが高い教養(哲学的な)をもっていないければならないという倫理的スタンスが強調されるという。また、術に関係する占星術・天文学的知見はプトレマイオスに準拠しているようだ。