バーレスクな静物画?

15世紀から16世紀というと、世俗化が進んで、ラブレーではないけれど下ネタを含む様々なバーレスク、あるいはサティリカルなテーマがあふれ出すというイメージがあるけれども、そうした動きは詩人にとどまらず、画家にも影響をおよぼし、バーレスク、サティリカルな視線は彼らを通じて自然界の事物や日常生活の事物にまで注がれていた……といった話を扱ったアーティクルを読んでみた。ジョン・ヴァリアーノ「後期ルネサンスのローマにおける、性的メタファーとしての果実や野菜」というもの(John Variano, Fruits and Vegetables as Sexual Metaphor in Late Renaissance Rome, in Gastronomica – The Journal of Food and Culture, Vol. 5, No. 4, 2005, University of California Press)(PDFはこちら)。

静物で人物画を構成してみせた作例としてアルチンボルドーがいるけれども、同論考によると、そこまで極端ではなくとも、果物や野菜を性的な暗示を込めて描いた絵画というのが何点かあるのだという。一部の果物や野菜が人間の身体と似ているという話は、もともとは植物誌の伝統に息づいていたわけだけれど、1588年にジャンバティスタ・デッラ・ポルタの挿絵入り『フィトグノミカ(Phytognomica)』の刊行で、一般に流布することになり、そこから17世紀にいたるまで、食物と性とのメタファーはウィットや疑似科学に支えられて存続していくのだという。で、同論考では、エロスの意味を込めて静物を描いた最初期のものとして、ラファエロの「プシュケーの回廊」の、ジョヴァンニ・ダ・ウディネの手による外枠部分と、ニッコロ・フランジパーネの「秋の寓意」が挙げられている。うーむ、これらに関してはなかなかあけすけな表現ではあるなあ(笑)。同論考は続いて当時の詩作品に見られるバーレスクなものについていくつか紹介した後、エロティックな静物画の最高潮としてカラヴァッジョの「石棚の上の果物がある静物」(1605、ローマ、ボルゲーゼ美術館)を取り上げている。先の二枚はエロティックな表現が本筋の主題ではないわけだけれど、著者によるとこれが初の、単独でのエロス表現の静物画ではないかという。うーむ、そうなのか?これは解読のキーがないとわからないような気がするが……(苦笑)。いずれにせよ、詩と絵画表現の通底というのはなかなか奥深い世界のよう。これに音楽も加わると、ますます興味深いものになっていきそうな気が(?)。

これがその問題の、カラヴァッジョ作とされる「石棚の上の果物がある静物」。ひょっとして、張り出すのはマズイ……とか?(笑)