技術論の地平……

読みかけというか、飛び飛びに読んでいる堀越宏一『ものと技術の弁証法』(岩波書店、2009)。物質生活や技術の視点から生活誌を描くという一冊。一言でいえば便覧のような本。総論的なスタンスでもって、中世の物質生活の全般を細かなディテールを交えながら記していくというスタイルなので、項目別に読むことができる(笑)。飛び飛びに、というのはそういう意味。なるほど技術について史学的にまとめるとすればこういう形になるのも納得できる。けれども、個人的にはその先にあるはずの各論のほうへと関心が向く。というか、関心を向かわせるような配慮の記述が目につくというか。たとえば先のジャンペル本でも出てきたシトー会の技術力の話。労働の組織化という点で、シトー会はとても興味深い対象。で、同書では、修道院経営のあり方などについて言及されていて、研究・調査の手引きよろしく、どういった史料が使えるのかも示唆されていたりする。

……と、そんなことを書いていて、この「ヨーロッパの中世」というシリーズ全体がそういう感じの編集方針なのか、と思いいたる(苦笑)。全8巻というこのシリーズ、いつの間にか全巻刊行は目前で、6巻の「声と文字」(タイトル的には面白そうだ)を残すのみとなっている。