プラトン主義の系譜を、飛び飛びに追っている形だけれど、ヌメニオス、アッティコスときて、今度はダマスキオスを読み始める。3巻本で出ている希仏対訳本『第一原理論』の一巻目(“Damascius – Traité des premiers principes 1 – de l’ineffable et de l’un”, L.-G. Westerink & J. Combès, Les Belles Lettres, 2002)。ダマスキオスは5世紀末から6世紀にかけて活躍した人物。同書の冒頭の解説によれば、他の例に漏れず、その生涯についても諸説入り交じっている模様だが、大筋は次のような感じ。ダマスキオスはシリア出身で、アレクサンドリアで学んだ後にアテネのマリノスのもとで学問を修める。そんなわけで新プラトン主義の一派に属し、とりわけイアンブリコスの影響を強く受け、プロクロスの見解をいろいろ再考しているという(ちなみにそれを証言しているシンプリキオスはダマスキオスの弟子だ)。ところが東ローマ皇帝ユスティニアヌスがキリスト教以外の異教の学問を禁じたためにアテネを追われ、シンプリキオスを含め仲間たちとペルシアに亡命。その後アテネに戻ったとか戻らないとか判然としていないという。
著作はいろいろあり、哲学史的に重要とされる『イシドロスの生涯』、アリストテレスやプラトンの若干の著作への注解、そして『パルメニデス注解』とセットで語られるこの『第一原理論』。これは注解ではなく、第一原理(一者)と流出についてのかなり自由で思弁的な論述だという。まだ冒頭部分しか見ていないけれど、確かに一者の言語化できない特質などが淡々と(わりと平坦に)語られていく。でも細かく突き詰めていく異例な思考のスタイルだとされるだけに(シンプリキオスによると)、面白くなっていきそうな徴候も確かに感じられる(ような気がする)。