「ソフィスト」絡み

シンプリキオスの注解書は大まかに、アリストテレスを新プラトン主義に引き付けて論じたものというふうに位置づけられているけれど、どこがどうプラトン主義化しているのかというまとまった細かな話は案外見あたらないような気がしていた。そんなこともあって、ちょっと取り寄せてみたのが、マルク=アントワーヌ・ガヴレ『<ソピステース>読者としてのシンプリキオス』(Marc-Antoine Gavray, “Simplicius lecteur du Sophiste”, Klincksieck, Belge, 2007)。ベルギーの版元っすね。シンプリキオスのアリストテレス注解書に、意外に多く言及・引用されているのが、プラトンの『ソピステース(ソフィスト)』なのだといい、その引用箇所を文献学的に拾い上げて検討するというのが同書の基本的な趣旨。『範疇論注解』『自然学注解』『霊魂論注解』などを順に取り上げている。文献学的なアプローチなので、思想内容へはそれほど深く踏み込んでいるわけではないようだけれど、それでも取っかかりとしては面白いかも。論考部分は100ページほどで、後半は引用箇所を希仏対訳で載せている。個人的にはこの対訳部分のほうに惹かれるのだが……(笑)

『ソピステース』はそういえば以前にLoeb版で読んだはずなのだけれど、今振り返ると、中程くらいのところに『パルメニデース』を補完するような存在と非在の話が出てきたなあというくらいで、すっかり忘れてしまっている(苦笑)。プラトンの著作の中では意外に重要なのだというし、そのうちちゃんと再読しないと……(笑)。

シュタイアーの「ゴルトベルク」

シュタイアーの演奏による『ゴルトベルク変奏曲』(J.S.Bach: Goldberg Variations [CD+DVD]を聴く。これはまた面白い。対位法の主旋律以外の音がまた響く響く。そのせいか、なんだかちょっと別の曲っぽいかのように、ゴルトベルクがまた違って響いてくる(っていうのは言い過ぎかしらね)。でもこれ、ある意味とても堅実なアプローチだということは、付録のDVD(!)を見ても分かる。音の運びやバッハの考え方などを縦横に語っていて興味深いのだけれど、総じて以前のモーツァルトものなんかとは全然違うスタンス。鍵盤を操る自在さ加減が、今回は別の次元に昇華されたような印象だ。うーむ、シュタイアーおそるべし……。ちなみにこれ、iTunesなら安く買えるけれど、やはりDVD映像があるのでCDで買うほうが個人的には良いかなと思った。

「書物狩人」

このところ閑話休題的な話ばかりが続いているけれど、ま、たまにはそれもよいかなあと。というわけで、今日もそんな話。久々に一気読みしたのが赤城毅の小説『書物狩人<ル・シャスール>』(講談社文庫)。ほとんどA級ライセンス並みの、プロの古書ハンターの話だ。いやー、ずいぶん前に読んだ『せどり男爵数奇譚』同様、古書をめぐる話はそれだけで胸躍る(苦笑)。しかも今回のはまたスケールがでかい。まさに世界をかけめぐるという感じ。稀覯本の獲得がこんなペダンチックな(いい意味での)、しかも悪漢小説めいた話になるなんて……。うーん、お見事。ま、素人目には多少「あれ?」というツッコミどころもないわけでもないけれど、そんな些細なこともどうでもよくなるほど、スピード感あふれるスタイリッシュな(紋切り型表現で失礼)展開で、なかなか爽快な読後感。おすすめかも。おー、ノベルス版で続編も出ているんすね。

ラテン語会話

これはまだ取り上げていなかったと思うので、『テルマエ・ロマエ』関連ということで。国内で出ている「ラテン語会話」教本の筆頭(というか、ほぼ唯一のもの?)がこれ。『現代ラテン語会話 – カペラーヌス先生の楽しいラテン語会話教室』(有川貫太郎ほか編訳、大学書林、1993)。ドイツの会話教材の邦訳ということだけれど、これはすごい。個人的にはまだ真ん中あたりを彷徨いている感じなのだけれど、挨拶や簡単な受け答えなどから始まって、シチュエーションごとの例文がびっしり並び、巻末のほうでは時事問題レベルにまで達するというもの。いいっすね、これ。なかなか身につかないけれど、何度も読み返そうという気にさせてくれる。ある意味会話本の理想型に近いものが……(?)。

テルマエ・ロマエ

噂だけ聞いていたのだけれど、実際に読んでみた……で、噂にたがわず、このギャグマンガはなかなか笑える(笑)。しかもちょっとラテン語の勉強にもなるというおまけつき(笑)。ヤマザキ・マリ『テルマエ・ロマエ』第一巻(エンターブレイン)。五賢帝時代のローマで建築技師をやっているルシウスが、毎度風呂でおぼれかけると、そこはなんと現代日本の風呂にタイムスリップ。そこで得た異質な文明の文化をローマに持ち帰ると、まわりの人々に大ウケ(というパターン……水戸黄門みたいだけど(笑))。でもって、噂が広まって、しまいにはハドリアヌス帝に呼び出されることに……という展開。毎回ちょこちょことラテン語が出てくる。ラテン語で「便所はどこか?」って言えます?ちなみにこの作品内では、建物内のどこに便所があるのか、ということで、”in quanam parte latrina est ?”。また、主人公が忙しさにかまけているとかみさんが出ていってしまうのだが、その置き手紙「離縁させていただきます」はどう訳します?この作品では、”divortium tecum pacio”。ほかにもいろいろ。うん、すばらしい。このマンガ、どうせなら全編ラテン語版を作ってほしい気がする(笑)。みんなでラテン語会話しよう!続刊も楽しみ。