教会と俗世:錯綜感

小著ながらこれはなかなか興味深い一冊。フランツ・フェルデン『中世ヨーロッパの教会と俗世』(甚野尚志編、山川出版社)。マインツ大学の歴史学教授による日本での講演をまとめたものということだけれど、収録されている三つの講義はそれぞれ12世紀の女子修道院、聖堂参事会、アヴィニョン教皇庁など、どれも内実があまり知られていない(と思われる)事象を扱った貴重な内容だ。最初に編者による解説があって、これが端的なまとめになっているのだけれど、実際の本文になると、なかなか歴史事象というものがすんなりと一筋縄ではまとまらないことを改めて感じさせる。たとえば最初の女子修道院。12世紀初頭ごろにはいったん男女共生の修道院(プレモントレ会とか)が登場しながら、すぐにそれは廃止され、その記憶すらも消去されるという話や、シトー会の周辺というのが以外に様々な動きを見せて、シトー会の女子修道院の実体というのがとても多義的だというあたりの話など、なにやらとても錯綜した感覚だ。聖堂参事会もしかりで、修道院との関係などの話は興味深いものの、なにやらよくわからなかったり(苦笑)。アヴィニョンの教皇庁も、従来の確固たる権力機構というイメージは修正を強いられているらしい。そのあたりを読み解く鍵は国王との関係だともいう。うーん、このあたりはなかなかに興味深い。巻末には結構充実した参考文献も。