リクールとアウグスティヌス

少し前にポール・リクールの小著『悪』を取り上げたけれど、そこで気になったのは、リクールに散見されるアウグスティヌスへの言及。で、そのあたりのことをまとめている論考はないかしらとか思っていたら、ちゃんとそのテーマで参考書が出ていた(笑)。イザベル・ボシェというアウグスティヌスの研究者による小著。タイトルもずばり『ポール・リクールの思想におけるアウグスティヌス』(Isabelle Bochet, “Augustin dans la pensée de Paul Ricoeur”, Editions facultés jésuites de Paris, 2004。リクールの思想的変遷とアウグスティヌスの絡みを時系列的に整理している。意外だったのは、悪の問題についての立場(アウグスティヌスがグノーシス的な枠組みをかえって温存してしまったといった批判など)が、上の『悪』のはるか以前、60年代の論文などに見えているという話。なるほど、そのあたりの話は結構古いのか。リクールはその後大きく解釈学を拡大して、『時間と物語』などを記すわけだけれど、そこでも出発点となっているのはアウグスティヌスの『告白録』への批判だといい、その後の聖書論や記憶論でも、アウグスティヌスのテキストへの参照が、その変遷の節々にに大きな影響を及ぼしてきたらしいことが示されている。ふむふむ。そのあたりのポイントも踏まえつつ、聖書解釈学あたりは改めてちゃんと押さえておきたい気がしている。