サンタクロースの造形のもとになった、ともいわれる聖ニコラウス(4世紀)。けれどもこの人物自体の存在も微妙で、ミラのニコラオスほか幾人かの聖人のいわば「掛け合わせ」のような感じで伝承が形成されたのだという。最初はギリシアで、続いてヨーロッパ中世で盛んになったといわれるその崇拝について、ちょうどクリスマスでもあるし(笑)、関連する論考をちょっと読んでみる。サラ・バーネット『中世イタリアにおける聖ニコラ崇拝』(Sarah Burnett, “The Cult of St.Nicholas in medieval Italy”, University of Warwick, 2009)という博論。500ページ弱あるので、すぐに全部は読めないけれど、さしあたり第一章までの60ページほど(続く第二章はイコノグラフィ、第三章、第四章はそれぞれプーリアとヴェネティアにおける事例研究。巻末の図版とかも素晴らしい)。
このところMedievalists.netで紹介されている論文をダウンロードしてぼちぼちと読んでいるのだけれど、これがまた結構すぐに溜まっていく(苦笑)。ま、積ん読はいつものことか……。これまたそうしたうちの一つだけれど、デボラ・ブラック「ラテンおよびアラビア哲学におけるアリストテレス『命題論』」(Deborah L. Black, ‘Aristotle’s Hermeneias in Medieval Latin and Arabic Philosophy’ “Canadian Journal of Philosophy” suppl. vol. 17 (1992))(pdfファイルはこちら)という論考を読む。ラテン中世とアラビア世界との影響関係ではなく(というのも『命題論』の浸透はまったくの別ルートになっていて、直接的な影響関係がまったくないからだけれど)、むしろ両文化圏において『命題論』がどう受容されていたかを見ることで、それぞれの受容のフィルタリングがどのようなものだったかを考えるという、ちょっと興味深い視点に立っていて、とても興味深い。しかもそれを、「命題」そのものの定義や、名辞の扱われ方、非限定名辞(否定辞つきの名辞など)といったテーマごとに、両文化圏の解釈の違いをまとめあげている。ラテン中世の識者(ダキアのマルティヌス、ロバート・キルウォードビー、アルベルトゥス・マグヌス、トマス・アクィナス)、アラビア世界の識者(主にファラービーとアヴィセンナ)それぞれの内部的な違いなども絡んで、なかなか読み応えのある議論になっている(と思う)。
テキストだけならオンラインでも手に入る『六原理の書』(Liber sex principiorum)だけれど、解説その他を期待して、羅伊翻訳本(“Libro dei sei principi”, trad. Francesco Paparella, Bompiani)を入手する。さっそく序文を読み始める。これ、中世の論理学の入門書として、実際に学校で使われていたらしいテキストブックの一つ。長らく12世紀のギルベルトゥス・ポレタヌス(ポワチエのジルベール)の書とされてきたものの、最近ではそのアトリビューションは否定されていて、逸名著者の作ということになっているらしい。基本的にはアリストテレス『範疇論』の10の範疇のうちの六つ(「能動」「受動」「時」「場所」「姿勢」「所有」)を簡便に解説している書。それに、一章目の「形」と最終章の「多い・少ない」(これも『範疇論』から)についての話が加わっている。全体として、より長い著作の一部だった可能性もあるという。