この一週間のtweets : 2011-02-14から2011-02-20

コンスタンティヌス像

フランスのローマ史家ポール・ヴェーヌ。その著作の一つが先頃邦訳で出た。『「私たちの世界」がキリスト教になったとき−−コンスタンティヌスという男』(西永良成ほか訳、岩波書店)。訳者の西永氏は学生時代に個人的にお世話になった先生。直接の指導教官ではなかったのだけれど、今振り返ってみると、指導教官ではない先生方の言葉とかがむしろ後々まで残っている気がする(笑)。すでに退官されて、パリの大学都市にある日本館の館長に就任されたという話を少し前に耳にしていた(今は帰国しているのかしら?)。ま、それはともかく、早速その邦訳書を目下読んでいる。原書は2007年のもの。これは研究書ではなく、比較的新しいの知見などを取り込んだ一種のエッセイで、従来とはやや異なる(?)コンスタンティヌス像を描き出している。うむ、なかなかの快作。

コンスタンティヌスは、政策的には属州の支配に手腕を発揮したり、圧倒的多数を占めていた異教に対して寛大だったりと、プラグマティストな面を強く感じさせるものの、キリスト教への改宗は功利的・政治的な野心からなどではなく、あくまで個人的な嗜好・意志によるものだったといい、この二重性が人物像に深みを与えるとともに、キリスト教のある種の側面を引き立てることにもなり、結果的にローマにおける教会組織の基盤作りに貢献することになった……というのが全体のメインストリーム。そんなわけで、ヴェーヌによれば、そこに意図的なシンクレティズム(諸教混淆)とかイデオロギーとかを見るのは端的に誤りであるということになる。こうしたコンスタンティヌス像やその治世観の是非は、判断できるだけの材料を持ち合わせていないのでわからないのだけれど、いずれにしてもキリスト教の拡大(著者はこれを「ベストセラー」の理屈になぞらえてみせたりもする)を、ともすれば援用されがちな単純な因果関係、単線的な論理などに還元することはできないのだ、という強い思いが基底にあるらしいことは強く感じられる。でも、同書のいちばんの読みどころはまた別のところかも(?)。つまりそれは、微妙に脱線しては本線に戻ることを繰り返すような語り口も含めた、なにやら「フランスならでは」の叙述のなまめかしさではないかしら……なんて。そう、これは案外珍しい、なまめかしい歴史書ではないかな、と。「ヨーロッパに根などない」と言い切れる人なんてあまりいないのでは(笑)。

否定神学の「教科書」

13世紀のパリ大学で講義に使われたという、ディオニュシオス・アレオパギタの『神秘神学』ラテン語訳(エリウゲナ訳)ほかの編纂版(“A Thirteenth-Century Textbook of Mystical Theology at the University of Paris”, trans. Michael Harrington, Peeters, 2004)をゲット。訳者マイケル・ハリントンによる序文に早速目を通す。この序文、論文として実にうまい構成になっていて、『神秘神学』の翻訳史から始め(エリウゲナの前にヒルドゥインというサン・ドニの修道院長による訳があるという)、神秘神学に見られるプロティノスの引用箇所を検討した後、ギリシアでの注解の伝統を取り上げ(プロティノスからポルピュリオスへと至る、新プラトン主義の転換が反映され、世界霊魂は神に同一視されているのだとか←(これは要確認だな))、そこからエリウゲナ訳がディオニュシオスの原典をどう扱っているかへと進み、アナスタシウス訳のギリシアの注解やエリウゲナの著作に触れ、校注版本文の解説へと入っていく。特に指摘されているのは、「思考」と「一者との合一(神秘的上昇)」との関係の話。ディオニュシオスでは両者は明確に区別されているのに対して、エリウゲナ訳では全体にその区別が曖昧になっているという。選択された訳語など翻訳上の微妙な差異が入っているのだとか。ギリシアの注解の伝統にもそういう部分があるようで、そのあたり、エリウゲナがそちらの影響を多少とも受けた可能性もありそうだ。なかなか興味深い話になっているでないの。いずれにしてもエリウゲナ訳のテキストは、アナスタシウスの後も様々な修正や注解を経て、13世紀にまで受け継がれていく。かくして本書の本文をなす「教科書」も出来上がるというわけなのだが、さて、その出来はいかに?

驚異の幼児向け哲学ワークショップ

昨日だけれど、ご厚意により、フランス映画『Ce n’est qu’un début』(Jean-Pierre Pozzi & Pierre Barougier監督作品、2010)(フランスの公式サイトはこちら(ww.cenestquundebut-lefilm.com))の試写を拝見させていただいた。昨年秋にフランスで一般公開されたもの。なんと幼稚園で試験的に開かれている哲学ワークショップ(!)を2年間追ったドキュメンタリー。これ、France2の定時ニュースでも取り上げていたっけ。恵まれない層が多い郊外地区に設置された優先教育特区(ZEP)にあるジャック・プレヴェール校幼稚園。そこに通う四歳の子どもたちに、自分の頭で考える習慣を付けさせるべく、試験的なワークショップが始まる……。最初、「今はできないけれど、将来できるようになることってどんなこと?」との先生の問いかけに、まったく答えを返せない子どもたち。ところが1年、2年と経つうちに、彼ら彼女らはしっかり意見を言えて、相手への反論を返せるようになっていく。この成長ぶりが実に驚異的だ。愛とか死とかいったテーマすら話題にすることができるようになるのだから。それぞれの子の個性が早くも芽生えていく様も興味深い。

一方で、郊外地区の抱える問題、ひいてはフランス社会、近代社会の様々な問題も、すでにして彼ら彼女らの心のうちに影を落としている様も散見される。たとえば人種的偏見なども、おそらくはまわりの大人たちの言動を通じてだろうけれど、すでにして取り込まれていたりする。テレビなどで報道される陰惨な殺人事件などの断片的なイメージも、しっかりと心に刻まれていく。クリシェの恐ろしさ、か。優先教育特区が置かれた郊外地区は、いろいろな社会問題の縮図のような場所といわれるけれど、これらの子どもたちが果たしてこれから先、かくして根付いたかもしれない(?)省察の習慣によって、そういう諸問題にきちんと向き合い、その都度乗り越えていけるのかどうか、とても気になるところだ(実際、こうした幼児の哲学ワークショップの是非も、いろいろ議論されているらしいが……)。

もちろん、あのサンデルの授業もそうだけれど、映画そのものには描かれない周囲の努力もいろいろなされているらしい。この点を見逃してしまってはいけないだろう。親たちに対しても、子どもと話ができるようにとワークショップが開かれているというし、教師の側もかなり周到な準備をしているらしい。いずれにしてもこれはとても実験的・野心的な試みではある。ちなみに日本での配給元はファントム・フィルムで、公開は夏ごろの予定とか(仮題で『ちいさな哲学者たち』)。まだ試写も行われるらしいので、興味ある向きは連絡してみるとよいかも。あと、個人的には要所要所で挿入される曲がなんとも印象的で耳に残る。どうやらこれ、ウードの曲らしい。チュニジアのミュージシャン、アヌアル・ブラヒム(Anouar Brahem)によるもの。アルバム「Astrakan Cafe」から。

↓トレーラーを掲げておこう。

この一週間のtweets : 2011-02-07から2011-02-13

  • テオルボなら多少は……。RT @kaorekaora: しかし10人ていどのアンサンブルですら聴こえないリュートという楽器の哀れさよ…涙 00:43:20, 2011-02-07
  • 何かと思ったら、マンデヴィル旅行記の写本普及の変遷か。1975年のもの。RT @medievalbook: The Availability of Mandeville’s Travels in England, 1356—1750 http://bit.ly/gKgfT6 00:58:29, 2011-02-07
  • 聖誕教会に世界遺産の登録申請か。RT @e_archiviste: L'église de la Nativité à Béthléem, patrimoine mondial ? http://bit.ly/gzRU8T 09:06:08, 2011-02-07
  • 【ラ語】munus depono 辞職する "Complura centena hominum flagitant, ut Mubarak munus deponat." Nuntii Latini http://bit.ly/i1OSDU 09:34:34, 2011-02-07
  • 【ラ語】arma ignifera 火器 "arma ignifera contra reclamatores adhibere ceperunt" Nuntii Latini http://bit.ly/i1OSDU 09:40:10, 2011-02-07
  • radiobremenのラテン語ニュース、少しデザインが変わってナイスな感じ。ビデオ映像も。http://bit.ly/epFV47 09:49:52, 2011-02-07
  • キンドル版とハードカバーの価格差すごすぎ> A History of Mediaeval Jewish Philosophy by Isaac Husik http://t.co/wfaPQ3r via @amazon 15:33:44, 2011-02-07
  • こちらは価格差がなくてびっくり。うーむ、高! The Speculum Astronomiae and its Enigma: Astrology, Theology and Science in Al… http://t.co/SRalH5j via @amazon 15:38:41, 2011-02-07
  • Springerの本も全般的に高いですねえ。2冊で1400ページ強なら厚さはCambridgeの中世哲学史本2巻とそんなに違わないのに……。RT @adamtakahashi: Encyclopedia of Medieval Philosophy 17:46:16, 2011-02-07
  • New blog post : : 「中世の知識と権力」 http://bit.ly/fylpBf 23:40:19, 2011-02-07
  • VMWareのWin環境にウィルスが混入し、駆除・復旧に半日以上もかかってしまった。最近のって駆除しにくくなっているのかしら。 19:38:53, 2011-02-08
  • その後、感染元も判明。某PDFを装って入ってきたみたい。そういえばなんかちらっと警告が出ていたような気も(苦笑)。自己解凍形式のファイルはやっぱり気をつけないとなあ。 01:21:31, 2011-02-09
  • というわけで、検索すると上のほうに出てくるSpeculum astronomiae and its enigma(Zambelli)のダウンロードファイルは木馬でやんした。 01:32:14, 2011-02-09
  • 【仏語】en vrille きりもみ状態 "Avec ses vacances égyptiennes, Fillon part en vrille" L'Express http://bit.ly/h2sxni 14:25:41, 2011-02-09
  • 【希語】ξενοδοχεῖον ホテル "ὀ πρόσθιος τῆς Ταιλανδίας πρωθυπουργὸς (…) ἐκει οἰκεῖ τε καὶ ξενοδοχεῖον οἰκοδομεῖ." AWN http://bit.ly/eTlheL 14:49:43, 2011-02-09
  • 【希語】ἑκατοναετία 世紀 "τὸ τοῦ προβλήματος κέντρον χεμερινὸς ναός ἐστιν ἐν τῇ ἐνδεκάτῃ ἑκατονταετίᾳ ᾠκοδομημένος" AWK http://bit.ly/eTlheL 15:30:19, 2011-02-09
  • 七〇人訳。καὶ εἶπεν ἡ γυνὴ τῷ ὄφει Ἀπὸ καρποῦ ξύλου τοῦ παραδείσου φαγόμεθα, ἀπὸ δὲ καρποῦ τοῦ ξύλου, ὅ ἐστιν ἐν μέσῳ τοῦ παραδείσου, 20:13:02, 2011-02-09
  • (承前)εἶπεν ὁ θεός Οὐ φάγεσθε ἀπ᾿ αὐτοῦ οὐδὲ μὴ ἅψησθε αὐτοῦ, ἵνα μὴ ἀποθάνητε. (「そこで女は蛇に答えた」以下) 20:18:19, 2011-02-09
  • というわけで、ちゃんと「樹の果実」とあります。リンゴじゃないが。 20:26:07, 2011-02-09
  • 某CSチャンネルで再放送していたスタートレック(TOS)は今日が最終回だった。今見るとやはりちょっと古くさいという感じ……。しかもとくに第3シーズンはシナリオとかもダレていたような気が(笑)。明日からは「新スタートレック」(TNG)。 23:53:23, 2011-02-09
  • New blog post : : アンセルムス関連論考二本 http://bit.ly/hdLB1f 21:45:49, 2011-02-10
  • 「深夜食堂」全十話をDVDで見終わる。原作は読んでいないのだけれど、雰囲気が山口瞳「居酒屋兆治」っぽい感じでよかった。小林薫のマスターがとっても渋いっす。いろいろ食べたくなるし(笑)。 22:40:10, 2011-02-10
  • オープニングの曲、鈴木常吉「思ひ出」を思わずiTunesで購入してしまった(笑)。原作も買ってみようかしら。 22:41:44, 2011-02-10
  • わくわく。RT @kaorekaora: 【いよいよ本日】 2/11(金) 12:15〜18:50 NHK-FMラジオ番組「今日は一日《古楽》三昧」、6時間半の生番組の案内役はソプラニスタ岡本知高(@TomotakaOKAMOTO)さん。 西欧の古楽の魅力が6時間半にわたって放送 11:30:56, 2011-02-11
  • バッカスよ、ようこそ。Istud vinum, bonum vinum, vinum generosum ♪ 13:52:53, 2011-02-11
  • オルフェオきた〜。 15:04:50, 2011-02-11
  • うむ、ラモー。ノリノリ。 16:54:47, 2011-02-11
  • うーむいいなあ>ホルボーン。ガンバはやはり別格 17:31:15, 2011-02-11
  • ジョスカンはナルバエス編曲ということだったけど、セルミジもフエンジャーナ編曲版? 17:50:56, 2011-02-11
  • お〜。RT @shinjike: Etienne Gilson の著作の幾つかががダウンロード出来る。http://bit.ly/fva90I  19:36:50, 2011-02-11
  • んー。さっきのGilsonの著書のオンライン版、Kindle版を落としてみたけど、スキャナにかけてOCRで読み取らせただけという感じですね。読み取りエラーの数が半端じゃない!やはりフツーに書籍を買うほうがよろしいかと(苦笑)。 21:04:45, 2011-02-11
  • 笑った。あ、笑い事ではないか。RT @adamtakahashi: ちょっと・・・!!「シゲルスを中心とするラテンアヴェエロス派や、ジョン・ペッカムを中心とするアウグスティヌス派と論争を繰り広げる」 21:10:54, 2011-02-11
  • その下には「アウェッロエス」なんて表記もありますね。 21:11:39, 2011-02-11
  • 一瞬びびりました(笑) RT @mk_sekibang: Wikipediaのスカリゲルの項目にはなんと「シリカゲル」との誤記が……ありませんでした! 22:36:12, 2011-02-11
  • New blog post : : プセロス「カルデア神託註解」 16 http://bit.ly/ihDBAu 23:44:49, 2011-02-11
  • مبروك!おめでとう!RT @france_culture: Mabrouk ! France Culture fête l'Egypte http://nblo.gs/eaW0O 08:29:56, 2011-02-12
  • New blog post : : エーコ&カリエール本 http://bit.ly/gUtlEz 00:51:47, 2011-02-13
  • こりゃおかしい!RT @vellum8621: ラブも添加物なんでしょうか。RT @yoaruku_indie 友達が教えてくれた。バレンタインだからと言って、西友がふざけている件。 http://twitpic.com/3zb5vr 21:35:19, 2011-02-13
  • 攻撃色じゃなくするにはどうすればいいのだろう? RT @mikimarulog:(苦笑) RT @getnewsfeed: [ガ] すごい完成度! 『風の谷のナウシカ』のオウムにそっくりなオムライス http://bit.ly/fgwpaT の巻 #getnews 22:17:23, 2011-02-13