登攀せよ、類推の山

就寝前読書の本は、適度に面白そうだけれど実はそれほどでもない、というのがちょうど良いかも(笑)。それだと途中で放り出すこともなく、かといって眠らずに一気読みすることもない。でもたまにその中道から外れるものもある。で、久々に良い方に外れたのがルネ・ドーマル『類推の山』(巖谷國士訳、河出文庫)。すっごく遅ればせながら、一気読み。もとの邦訳は78年白水社刊ということで、文庫も初版96年だから、まあ多少ネタバレしても問題ないかな、と(笑)。これ、一種の冒険小説なのだけれど、なんだか学知探求の登攀の比喩のようにも見えてくる(笑)。通常のアプローチでは見えもしないしアクセスもできない超絶的な高さの<類推の山>。そこへの通路を、ある特殊な思弁(笑)でもって見出した一行。彼らは当然ながら、その山の登攀を計画する。そこに行くまでにもいくつもの逡巡があるのだけれど、そうして道の圏域に踏み出すと、またしても待ちかまえているのは麓での時間の無駄遣い(エントロピーですな)。それを脱して最初の小屋にまで登るも、新たなパーティにその場を受け渡すまでそこに止まらなくてはならないというルールが……。こうして登攀の行程はまだまだ先が長そうなのだが、作品は結局未完。うーん、少年老いやすく学成り難しというところか?登攀のための準備の描写がまたいい。最初、あれもこれもと荷物を詰め込む一行は、やがて結局は高度馴化が最も重要で、それを妨げるようなものをあれこれ持って行っても仕方がないということを悟るのだ。あ〜、なんだか身につまされるような気も……(笑)。