西欧の本草学へ

偽バルトロメウス『ハーブについて』(Ps. Bartholomaeus mini de senis, “Tractatus de herbis”(cura : Iolanda Ventura, Sismel, 2009)が届く。ブリティッシュ・ライブラリー所蔵のロンドン写本だそうだけれど、モノとしてはサレルノに伝わる治療術の一つとしての本草学の概説書らしい。まだちゃんと序文に眼を通してはいないのだけれど、どうやら13世紀後半以降、おそらくは14世紀直前ぐらいに書かれたものらしいという。サレルノには古くからそういう本草学の伝統があったようで、この書にも、偽アプレイウス『草木論』(Herbarius)や、13世紀以後広く流布したという『救急法』(Circa instans)などからの引用が散見されるらしい。同じく13世紀後半から普及するアヴィセンナなどの学術的な薬学の影響はないともいい、大学などとは別の、並行医術的に拡がっていた可能性もあるらしい。うーむ、なんとも面白そうな話でないの。サレルノそのものもやはり一枚岩ではない感じだし、西欧の本草学自体もなかなか深そうで、これはちょっとじっくり見ていきたいところだ。今年の冬読書はこれかな(笑)。

この一週間のtweets : 2010-11-08から2010-11-14

  • ん?twitterのダイジェストポストがうまく行っていないみたいだ。 00:18:42, 2010-11-08
  • [仏語] avoir le vent debout 向かい風の中を進む
    "La droite présidentielle est vent debout après la charge (…) de DV contre NS" – parisien.fr 09:00:08, 2010-11-08
  • New blog post : : 2010-11-01から2010-11-07のtweets http://www.medieviste.org/?p=2936 10:43:59, 2010-11-08
  • New blog post : : 2010-11-01から2010-11-07のtweets http://www.medieviste.org/?p=2937 11:43:03, 2010-11-08
  • New blog post : : 2010-11-01から2010-11-07のtweets http://www.medieviste.org/?p=2939 12:42:54, 2010-11-08
  • wordpressのtwitter toolsとtwitter digestのプラグインを使用しているのだけれど、なにやら微妙な不具合が……? 14:48:51, 2010-11-08
  • 「「群衆と権力」は閉ざされた円に集いたがる(エリアス・カネッティ)。あるいは人々を円形に集まらせることができるものこそ、権力の名に値するのであろう。円は動物供犠以来、共同体の示す根源的な図形であった」(臼井隆一郎『パンとワインを巡り 神話が巡る』(中公新書) 20:51:08, 2010-11-08
  • 「(…)西洋で発達した印刷機はそもそもワイン作りの葡萄の圧搾器に改良を加えたものであり、本来的な作りからしてそこには受苦も陶酔もつきまとうようにできている」(同)。 うーん、文学ですねえ。 20:53:20, 2010-11-08
  • [仏語] se prendre les pieds dans(窮地に)はまりこむ(?) "Villepin se prend les pieds dans son antisarkozisme basique" – Marianne2.fr 10:09:53, 2010-11-09
  • [仏語] あ、これって「つまづく」か。http://bit.ly/aia0oD 10:14:20, 2010-11-09
  • 最近、HMVとかタワーレコードとかで予約品注文すると、手に入らない確率が異様に高い気がする……。先日はJulian BreamのオリジナルジャケットCDセットが、半年遅れの末にキャンセルに。企画自体がツボったかなあ? 13:43:55, 2010-11-09
  • そして今度はプフィッツナー『パレストリーナ』のDVDも「入手困難」表示に……。あちゃー。 13:47:00, 2010-11-09
  • タワレコとかはサイトもすっごく重い……。なんだかなあ。 13:49:07, 2010-11-09
  • お、NHKの芸術劇場、12月3日はびわ湖ホールの「トリスタンとイゾルデ」で、続く12月10日はル・テアトル銀座の「イリアス」だって。楽しみっす。 15:34:07, 2010-11-09
  • AmazonジャパンのMP3ストア。リリース直後としてはなかなかのラインアップっすね。The 99 most essential Brahmsなんてのが各900円で2本。お安いでないの。 11:58:59, 2010-11-10
  • Oxford university pressのHoliday saleが始まっていますねえ。何かめぼしいものでもあるでしょうか? 14:31:51, 2010-11-10
  • お、philosophy->50% Offのところに、Jon McGinnisの"Avicenna"(Great Medieval thinkersシリーズ)が。半額なので15ドルだって。 14:35:32, 2010-11-10
  • 知泉書館から、小林剛『アルベルトゥス・マグヌスの感覚論』。すでに刊行されていますね。これは速攻で注文。http://bit.ly/dsS3Re 12:40:19, 2010-11-11
  • フリーの欧文OCRソフトを探す。で、FreeOCRに行き当たる。ところが見つけた情報がいささか古くて、V2.5とかを入れてしまう。最新のはV3。でもエンジン自体は変わっていないみたいで、精度は一緒だった(苦笑)。V4がアナウンスされていますね。早く出ないかなあ。 21:18:57, 2010-11-11
  • 「iPod touchをiPhoneのようにする「ZTE PEEL」、米で発売へ」という話。これいいっすね。3Gに接続できるケースだそうで。日本でもなんかやってほしい。 01:26:04, 2010-11-12
  • 今度はwordpressとfacebookの連携。いろいろとテストしなくては。facebookはどうもあまり評判が……でも使い方を考えたいなあ、と。 13:17:36, 2010-11-12
  • 『自由と行為の哲学』(春秋社)所収のハリー・フランクファートの論考を読み直しているところ。面白いなあ。外部からの強制は、人の行為の道徳的責任を免除する理由にはならない、という分析。これ、つきつめていくと、精神鑑定による情状酌量とかが一蹴されることにもなりそうな……。 14:28:08, 2010-11-12
  • さらに、フランクファートの「二階の欲求」論も面白い。なんだかこれを読んでいると、昔の機能言語学とか思い出す(二重分節とか)。自己参照こそが人間の例外的なところなんだ、みたいな(?)。でも最近は自己参照とか言われなくなったよねえ。 14:31:20, 2010-11-12
  • New blog post : : 『チェーザレ』8巻 http://bit.ly/a7IYAr 19:48:31, 2010-11-12
  • エーコの『バウドリーノ』本日到着!おー、登場人物表と参考地図を裏表に印刷した紙が挟まっていますね。 20:24:59, 2010-11-12
  • リツイート間違えた(苦笑) 10:42:43, 2010-11-13
  • なるほど、ハッシュタグの使い途の一端がわかった……かな? 10:53:30, 2010-11-13
  • [仏語] la fadette 「通話明細」http://www.largeur.com/?p=3276 "Secrets des journalistes : la fadette démode l’écoute" Marianne2.fr 11:24:01, 2010-11-13
  • Facebookのアルバム「medieval paintings」に写真を12枚アップロードしました http://fb.me/Mpd6vVoF 14:38:18, 2010-11-13
  • New blog post : : OmegaT http://bit.ly/dAwApk 15:12:27, 2010-11-13
  • Vrin社の最近の刊行物から。Al-Ghazālī, "Le critère de distinction entre l’Islam et l’incroyance". 19:46:23, 2010-11-14
  • Thomas d’Aquin, "Les questions disputées sur les créatures spirituelles". 19:46:50, 2010-11-14
  • ガザーリ、トマスときて、さらに番外的にマルブランシュ(笑)Malebranche, "Conversations chrétiennes, Méditations sur l’humilité et la pénitence". 19:47:44, 2010-11-14

OmegaT

先にBentenがちょっと合わないという話をしたけれど、今度はそのベースにもなっている翻訳メモリツール、OmegaT(オメガテと読むのだそうだ)を試す。これはインターフェース的にちょっと良いかも(笑)。翻訳する原文が広く見渡せるのが良い感じ。起動すると最初に簡単な使い方ガイドが示される。翻訳作業を開発プロジェクトと見なして、翻訳する対象も用語集も出力も同一フォルダで管理しようというわけだ。ふむふむ。さっそくそのお試しも兼ねて、アフロディシアスのアレクサンドロスの『知性論(De intellectu)』(クレモナのゲラルドゥスによるラテン語訳)の訳出を初めてみた。暇を見て進めるつもり。ソースをラテン語にし、ターゲットを日本語に設定して読み込むと、分節ごとに表示されるので、それを訳して次に進む。西欧語のものは皆、ピリオドで区切って分節に分けているみたいで、ラテン語ものでもとくに問題はなし。用語集は自作するしかないみたいだけれど、一度作れば流用できそう。ま、繰り返しの多い文章なら絶大かも>翻訳メモリ。

ただ、これはあくまで「始めにテキストありき」の場合向け。電子化されていない文書を打ち込みながら同時に訳してくというようなタイプの作業では、これはうまく使えない感じ。書籍などはOCRで読み込むなんて手もあるけれど、読み込んだ後の修正作業の手間を考えると、印刷ページ見ながら直接訳し出していくほうが速いんじゃないかあなあ、と。

『チェーザレ』8巻

本屋で平積みになっていた惣領冬実『チェーザレ』8巻(講談社)。うん、今回の巻は1492年で、まさに風雲急を告げるプロローグ的な展開。相変わらずディテールが見事な絵も素晴らしい。うーむ、堪能。おお、今回の巻にはリュートも描かれているぞ。レコンキスタの勝利を祝う宴で、ロドリーゴとスフォルツァ枢機卿が話す場面。あれ?このリュートは心なしか9コースのような気が……(揚げ足取りをするわけではありませんが……)。当時のスペイン貴族の宮廷でどんな音楽が奏でられていたのか、とても興味をそそられる。この場面では擦弦楽器やリコーダーも描かれているので、合奏曲ということだけれど。リュートだけで言えば、ちょうど初の活版印刷によるスピナチーノの楽譜(ペトルッチ版)が出るのが1507年。さらにダルサの楽譜が1508年か(wikipediaより)。その15年前とはいえ、当時のレパートリーもそんなには違っていなかったろうな、と。オケゲムとかジョスカン・デプレあたりの編曲でしょうかね、やっぱり。もちろん本当はリュートじゃなく、すでにビウエラだった可能性も?うーん、悩ましいところです。

さらに今回の巻では、サヴォナローラとチェーザレがご対面する。「fortuna vitrea est; tum, cum splendet, frangitur(運とはガラスのごとし。輝くときに砕かれる)」 とサヴォナローラが言うと、チェーザレが「fortes fortuna juvat(運は強き者を助く)」とやり返すというやりとりが!前者はプブリリウス・シルス(前1世紀の箴言作家)から、後者はテレンティウス(前2世紀)からの引用とのこと。うーん、渋いぜ。

病は種子から?

中世を囓りながら、ときにルネサンスに眼をやると、その違いというか距離というかになにやらクラクラすることがある(笑)。最近、パラケルスス『医師の迷宮』(澤元亙訳、ホメオパシー出版)に眼を通したのだけれど、その11節にある、病気が種子に由来するという話がちょっと衝撃的だった。「したがって元素は病気の原因ではない。元素の中に蒔かれた種子が病気の原因である」(p.163)というくだりと、「さらに認識されるべきは、病気が、体液からではなく種子から生じるということ、母からではなく父から生じるということである」(p.164)というくだり。前者の種子と後者の種子と、同じものを指しているのかどうかも微妙な感じ。あるいは母=質料、父=形相ということなのかしらとも思うのだけれど、とにかく体液のバランスを病気の原因とするような考え方はここでは一蹴されている。元素と体液は同じだ、みたいな話も出てくる。うーん、このところメルマガ関連で、中世ものの医学書(というかその概説書のようなもの)から受胎や胚の話などをいくつか読んでいるのだけれど、そこでの「種子」は大概具体的な話で、とうてい「元素(体液?)に蒔かれる」ようなものではない印象で、体液に絡むものといえば、むしろ種子が担っている精気ということになっていたみたいだった。また「種子が病気の原因」みたいな話もちょっと見あたらないような……。

でも、見逃している可能性も大きいし、病因論という観点からそれらの医学概説書、あるいはほかの資料を読み直してみたい気もしている。また、これに関連して、ルネサンスの種子理論について、以前一度ダウンロードしたものの積ん読になっていた論文に眼を通してみたのだけれど、これがむちゃくちゃ面白かった(いまさらながらですが)。先の『ミクロコスモス』(月曜社)編者のヒロ・ヒライ氏によるフラカストロ論文(仏語)。ルネサンス期には種子の概念が大幅に拡張(?)されて、心身あるいは宇宙と人体をつなぐ媒介項みたいになっている。これはまた壮大な世界観だな、と。うーん、中世も思いっきり深いけれど、ルネサンス(というか初期近代)も別の意味で深く、かつ広大だ……。