史料の読ませ方

メルマガのほうでも前に取り上げたのだけれど、和田廣『史料が語るビザンツ世界』(山川出版社、2006)を改めて眺める。これ、普通の通史ではなく、ビザンツの各社会階級の人々(皇帝、宦官、修道士、土地所有者、知識人、庶民、周辺の隣人)についての証言を、それぞれテーマ別に章立てて関連史料を訳出して読ませていくという面白い作りの本になっている。巻末には史料解題として、取り上げたものの校注本なども紹介されている。一種の概説書ではあるのだけれど、史料の読ませ方が巧みで、いろいろな文献の断片を味わうことができる。ビザンツ関連でこういった書籍はほかにちょっと見あたらない気がする。というか、ほかの分野でもあまりない感じ。バリバリの論考とかもいいけれど(出版事情として、そういうのはだんだん出にくくなっている感じがするけれど)、こういうアンソロジー方のまとめ本というのも、もっといろいろ作ってほしい気がする。こういうのが各分野ないし各テーマであれば、当該分野の全体の見取り図が得られるし、具体的な史料の感じも思い描くことができる。教科書っぽく下手に淡々と語られるよりも、こういう書籍のほうがとっかかりとしてもよいのではないか、と思ったり。