複式簿記の誕生

待ってました、という感じの研究書。橋本寿哉『中世イタリア複式簿記生成史』(白桃書房、2009)。4部構成の全体のうちまだ前半の2部までを読んだだけだけれど、予想通りの面白い研究。複式簿記の成立については諸説があるそうで、古代ローマ説なんていうのも少数ながらあるのだとか。主流はやはり中世イタリア説。とはいえ発祥地については説が細かく分かれるらしい。折衷案の同時期説なんていうのもあるという。同書はそこに、12〜13世紀の数学的思考の介在とアラブ世界の影響を見ている。第2部ではフィボナッチ数列で有名なレオナルド・ピサーノの『算術の書』(Liber Abaci)の内容が紹介されている。基本的な算術の概説書ということだけれど、なるほどその後半部分は商業活動への応用という話になっているわけか。さらに12世紀の公証人による商業契約記録が紹介され、海洋交易の一種のベンチャー事業の収益分配の実例が言及されている。会計帳簿のシステムが、商業活動の複雑化にともなって、そうした公証人の利益計算文書から派生的に整備されていったのではないかという話。うーん、面白い。後半は14世紀から15世紀にかけての地域的な簿記の発展を、具体例を追いながら詳述するらしい。そちらにも期待大。