「カミング・スーン」ブックス

昨日の話に関連して、ケンブリッジ大学出版から秋に『ケンブリッジ中世哲学史』という2巻本が予定されている。amazon.comではハードカバー版が250ドル(“The Cambridge History of Medieval Philosophy 2 V Box Set (Hardcover)”)。これはちょっと楽しみかも。10月31日刊行予定となっているけれど、こういうのは遅れそうだからなあ。ま、気長に待つとしよう(笑)。

ついでにamazon.comの中世思想関係の新刊予定を見てみたら、なにやら以前に比べて新刊の先取り情報が少なくなっている。刊行予定がそれだけ減ったということかしら?このところの経済状況の悪化のせい?うーん、そういう影響はジワジワくるからなあ。

ま、気を取り直して眺めると、お〜、8月にガンのヘンリクスのものとされる(?)『シンカテゴレーマタ』(“Syncategoremata: Henrico De Ganavo Adscripta”)が刊行予定に。ブルージュの州立図書館所蔵の写本の、おそらくは校注版でしょうね。延び延びになっているアヴェロエスの『霊魂論大注解』英訳本(“Long Commentary on the De Anima of Aristotle”)は、今度は6月24日の予定となっているが、これはどうなるのかしら(笑)。『ケンブリッジ必携:ボエティウス』(“The Cambridge Companion to Boethius”)なんてのも6月の予定。いままでそういえばなかったんだっけ?あとは食指が動くかどうか微妙なところとして、ドゥンス・スコトゥスもの(“Duns Scotus and the Problem of Universals”)や、アヴェロエスもの(“Averroes’ Physics: A Turning Point in Medieval Natural Philosophy”)、オッカムもの(“Ockham Explained”とか。

ピロポノス追記(&ブック検索)

13世紀ごろに出回っていたピロポノスのラテン語訳は、アリストテレスの『霊魂論』第三巻への注解だった(苦笑)。定番の参照本、ジルソンの『中世の哲学』(E. Gilson, “La philosophie au Moyen Age”, Payot & Rivages 1999)にちゃんと言及されていた。メルベケのギヨームによる1268年のラテン語訳。トマス・アクィナスが目にした可能性も当然あるという。ボナヴェントゥラが参照したというのもこれかしら?その点については言及はないようだけれど……。また、『自然学』注解のラテン語訳の存在もやはり不明。うーん、やはりかなり後になってからなのか、それとも13世紀ごろの訳書は散逸してしまっているだけなのか……?

ちなみにこれも定番の『ケンブリッジ中世後期哲学史』(メルベケの訳本への言及はそちらでも確認可)などは、今やグーグルのブック検索で一部公開になっている(“The Cambridge History of Later Medieval Philosophy”)。ブック検索の基本は絶版本という話だったけれど、あれれ、これはどうなっているのかしら?例の強引とされた和解のせいで閲覧可能になっているわけ?確かに全ページではないけれど、うーん……。ブック検索、便利だから使わない手はないし、学術書などの公開は原則としてもっと幅広く行われてほしいと思うのはやまやまだけれど、なにかこう今ひとつすっきりしないのは、こういう市販されている本の扱いがちょっと怪しいからか……。ちょうど日本の中小の出版社がブック検索の和解案を蹴ったニュースが出ていたけれど(Internet Watchとか)、やはりそのあたりが問題になっているようだ。もっとも、少部数の学術書などは本来、別のスキームが必要に思えたりもする。学術書や論文などは、学術的価値などから考えて部分的公開でいいから迅速になされたほうがよい気もする。もちろん、権利者のなんらかの同意は必要だろうけれど。いずれにしても十把一絡げで対応しようというのはそろそろ限界なんではないかしら、と。

ヘルマイオン

古典ギリシア語の作文強化に向けて(苦笑)、この半年ほど作文問題を中心に文法を一通り駆け足で見直している。そのテキストにしているのがこれ。『ヘルマイオン』(J. V. Vernhes, “ἕρμαιον – initiation au grec ancien”, Ophrys, 1994-2003)。フランスで出ている、おそらく最も練習問題の多い古典ギリシア語入門書。練習問題の多さで、これは実に優れもの。これほどガツンと手応えのある学習書、昨今の日本国内には見あたらない(?)。35課あるのだけれど、各課の訳読問題は平均でかるく100題を超える。さらに作文が30題から多いときには60〜70題。訳読問題は課が進むとそれなりに複雑化していくけれど、作文問題は大体一定(笑)。ま、これだけ浴びれば、弱点もよくわかるというもの(個人的には、アクセント記号の位置を結構間違えるのと、不規則動詞の活用……。ま、こんなのはひたすら馴れでしょうけどね)。語学は体育だと久々に思う。これ、いきなり初学者が取り組むというよりも復習用に最適。本文はフランス語だけれど、どこかの出版社が邦訳とか出してほしいところだよね。どこかやりませんかねえ……こんな出版情勢ではちょっと難しいだろうけど。本来は教室で使うことを前提としているみらいだけれど、独習も可。独学用には別冊の「部分解答集」(“Corrigés partiels”)もお忘れなく。とりあえず作文問題と各課の「本格テキスト」の訳の模範解答が載っている(訳読の解答はない)。多少ミスプリとかヌケとかあるのがフランスっぽくってご愛敬(笑)。

ピロポノスの方へ

メルマガのほうでインペトゥス理論(物体に力が伝わるという中世の運動理論)を復習しているのだけれど、その関係でヨアンネス・ピロポノスの『自然学注解』(Galicaで落とせる)をごく一部分ながら読んでみた。これがなかなか面白そう。ちゃんと最初から読もうかなあ(大変そうだけど)。くだんのインペトゥス理論がらみの話は真空についての論難部分に関連した文脈で出てくるのだけれど、とにかくアリストテレス批判っぽい話が微妙ににじんでいる感じ。ちょっと古い平凡社の『哲学事典』(1971-95)などを引くと、アリストテレスへの批判について「どの程度彼の独創で、どの程度当時までの反アリストテレス思想の伝統に由来しているかは、まだ明確ではない」なんて記してある(p.1171)。うーん、このあたりのことって、その後どのくらい研究が進んでいるのかしら、と関心が沸く。

さらにインペトゥス理論の先駆としての位置づけについても、「この概念が10世紀アラビアの注釈者たちを通じて、ビュリダン、サクソニアのアルベルトゥスら14世紀インペトゥス理論提唱者に伝承された、という説は、そのルートについて完全な確証を得ていない」(同)とある。『自然学注解』は確かシリア語、アラビア語訳はあったはずだが、ということはそこからのラテン語訳がないということなのかしら?でも、おそらく『世界の永遠性について』の話だと思うのだけれど、ボナヴェントゥラとかが影響を受けたという話もあったはず。うーん、ピロポノスの受容とか、基本的なところからちょっと確認せねば(笑)。

ヴィヴァルディの「ヴェスペロ……」

おー、これは納得の一枚(笑)。『ヴィヴァルディ:聖母マリアの夕べの祈り』。珍しいヴィヴァルディの宗教曲集。ヴィヴァルディだけに器楽曲重視のミサ曲。これはなかなかご機嫌だ。軽やかさと賛美が入り交じったハイパフォーマンスという感じ。演奏はムジカ・フィアータ、ラ・カペラ・ドゥカーレ。指揮はローランド・ウィルソン。別に新しもの好きというわけでもないのだけれど、2003年と2005年にドレスデン・ザクセン州立図書館で見つかり、ヴィヴァルディのものと特定されたというRV 807 Dixit DominusとRV 803 Nisi Dominusが収録されている(世界初録音というわけではないそうな)のも興味深い。二曲ともなかなかに豪華絢爛。一枚でいろいろな要素が楽しめるお得盤かも(笑)。

Vivaldi: Marienvesper -Domine ad Adjuvandum me Festina RV.593, etc / Roland Wilson, Musica Fiata, La Capella Ducale